小説
1
カラカラカラ。今日も朝日が昇る。フェリシアーノは店のシャッターを上げて、鍵を開けた。
中は静かで僅かに埃の匂いがする。
甘い酒と香ばしいスモークの匂いに誘われて、フェリシアーノの脚を少女…いや、幼女と言っても過言ではないだろう小さな影がすり抜けた。手には小さな雑巾。一目で手作りとわかる。
「シーちゃん、シルヴィア!部屋の隅を拭いてくれる?」
幼女はぱっと笑顔になってこくこくと頷いた。
ローブ姿の彼女はとことこと水場に向かって水を出し、きゅっきゅっと絞って部屋の隅に向かった。そこには埃が僅かだが溜まっている。
幼女はそれを雑巾で拭い、また向かいの隅に行く。そこでも手を一所懸命に動かして埃を拭いて綺麗にした。
幼女の頑張りを微笑ましく見ながら、フェリシアーノはカウンター、テーブルを拭いて椅子の位置を直し、酒と豆を確認する。それから余っている材料を確認して、今日の買い出しリストを作り上げた。
そこへ幼女が歩いてくる。
「ぴぃ」
「拭けたの?すごいねぇ!シーちゃんありがとー!!」
盛大に褒められ幼女は嬉しそうに跳ねる。その幼女を抱き上げて、柔らかな頬にキスした。
「一緒に買い物行こうか?」
「ぴぃ!」
幼女は元気良く片手を上げた。
ある日突然、上司から渡された小さな女の子。子育てを命じられあたふたと1年頑張った。今は隠れ蓑であるカフェの運営と子育てを並行させて、その女の子もお手伝いが出来るようになった。
周りの話を聞けば時期は前後するが全員子育てをしてるらしい。あのアルフレッドさえ奮闘中と言う話だ。大変だろうなぁ、フェリシアーノはジャムを眺めながら思う。
「ぴぃ」
小さなピィの女の子、シルヴィアはおやつのビスケットをフェリシアーノにねだる。それに苦笑してビスケットをカゴの中へ入れた。
抱き抱えて会計を済ませる。ビスケットの袋を持たせて帰路に着く。大事そうに抱き締めて、シルヴィアは笑顔だ。
重いなぁ、荷物を持ち直すフェリシアーノに耳を動かしたシルヴィアが声を上げる。すると後ろからぶぃ!と声がした。
「あれ、ファルベどうしたの〜?ルートは?」
茶髪の男の子、ファルベは茶色い耳をそよがせて、自分の後方を指差した。そこから慌てたルートヴィッヒが走ってくる。
「ルートー!ファルベこっちだよー!」
「フェリシアーノ!とファルベ、走ってはダメだと言ったはずだぞ!?」
逃げ出そうとしたファルベを捕まえて、ルートヴィッヒはこつんと指でつついた。
ぶぃ…しょげるファルベにフェリシアーノが飴玉を渡す。
「もう走っちゃダメだよ?ファルベはいい子だからわかるよね?」
「…ぶぃ!」
「ぴぃ!」
自分にも、とシルヴィアが頬を叩く。その小さな口に飴玉を入れて、頭を撫でた。
ルートヴィッヒはすまんな、眉を下げてファルベの頭を撫でる。嬉しそうに喉を鳴らすファルベに笑った。
「今日大学休みでしょ?仕事もなければうち寄ってよ」
「ああ、行こう。ファルベもシルヴィアに会えて嬉しそうだ」
「ぶぃ〜」
ハイタッチをする子供達に笑いながらルートヴィッヒはフェリシアーノの持つ荷物を半分持つ。ごめんね〜とさほど悪びれていないフェリシアーノは嬉しそうに笑った。
「これ、ライ。おやつはまだですよ。先に食事です」
「ぴかぁ」
金平糖を取り上げ、キクはポケモンフーズを渡す。ライは不服そうにパチパチと火花を散らすが、梃子でも動かないキクの様子にようやく口に入れた。
かりかり。美味しそうにかじるライに満足して、キクも食卓に着く。今日は水菜のサラダにトーストと洋風にした。慣れないがたまにはいいだろう。
「…やはり水菜はお鍋ですね…」
フェリシアーノを真似て作ったがなんだがしっくりこない。もぐもぐと口を動かして、ふと気付く。
「…そうだ、次は醤油を使ってドレッシングを作ってみましょう」
リベンジです。キクは嬉しそうに頷く。横では最後の1つを口に入れたライがキクのトーストを千切る。それを口に運んで、キクに怒られた。
「食べ過ぎです。あとで私とお散歩ですよ、いいですね?」
「ぴ…」
小さく頷いてライはパチパチと火花を散らす。その静電気に満たない小さな火花に嘆息して、キクは頬をつつく。ぴかっ!すぐに機嫌を直してライははしゃぐ。
ふふふ、キクは笑う。
「明日はイタリアに行きましょう。シルヴィアに会いたいでしょう?多分ファルベもいますよ」
「ぴっか!」
ぴょこぴょこと跳ねるライを微笑ましく見て、キクは最後の一口を入れる。ごくん、飲み込んでからごちそうさまをしてライを抱き上げた。
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