◆雑多集
未来を視る者10
※
轟々とうねる様な風の音が聴覚を支配する。
映像が足元に移動すると、車や人、道路が小さく見えた。
ここは……屋上?
周りに映像が映り、辺りをぐるりと見渡す。
ビルに取り付けられているタバコの広告の看板、給水塔、風に乗り空を飛び回る白い鳥。
背後からの人の声が聞こえるが、風が強い為、よく聞き取れない。
暫らく、暗闇がおとずれ、また光。
そして、映し出されたのは、必死に何かを叫び、こちらに腕を伸ばして走ってくる自分自身。
伸びる手を避けるように、グラリと映像が揺れ、また一面に透明感のある水色。
「さようなら」
呟くように紡ぎだされた声は、……美穂のものだった。
「……美穂……さん……」
俺は、頭を抱えていた両腕を下ろし、無表情で見つめてくる美穂を見た。
「……見えたんだ」
美穂は、ボソッと呟くと、スッと腰を上げ、俺に背を向ける。
「っ、待って、美穂さん!」
部屋を出て行こうとする美穂を追いかけようとしたが、続けて未来を観たせいか、身体が上手く動かない。
足が萎えてしまったように、力が入らず、俺は、畳に突っ伏してしまった。
その間に美穂の姿は、俺の視界から完全に消えていた。
「……美……穂さん、美穂さん、美穂さん、美穂さん!」
俺は、畳の上を必死に這いながら、開かれたままの障子の元へ行く。
少し薄暗い廊下には、既に美穂の姿はなかった。
暫らくして、何とか歩けるようになり、岩崎さんの家を後にした。
年配の女性が、酷い顔色をしている俺を随分と心配そうに気遣ってくれた。
きっと、岩崎さんのあの優しかった所は、母親似だったのだろう。
赤っぽい月の光が、夜道を照らす。
赤い月をみていると、不安な気持ちが更に増幅されていくようだ。
あの映像。
おそらく美穂は、あのビルから
……飛び降りる……
あの場に、俺の姿もあった。
きっと、俺は美穂を止めようと必死に掛けつけたんだろう。
死なせたくない。
……その一心で。
でも、未来の俺は、美穂を助けられなかった。
変えられるのか?
未来を
今まで、変えることの出来なかった未来を……
俺は、どうしたらいい?
……どうしたら……
「あ、居た、居た」
二人のスーツ姿の男性が、俺を見て声を上げた。
一人は糸目で小柄。
少し小太りの、三十代前半の温和そうな男性で、もう一人は、長身で、三十代後半といったところだろうか。
釣り目の、一見恐そうな風貌の男性だ。
誰だ?
「いやぁ、探したよー、あ、気分どう?岩崎の奥さんから君が気分悪そうだったって聞いてたから……んー、まだ顔色悪そうだね、大丈夫?」
糸目の男性が、ズイッと、心配そうに俺の顔を覗きこんできた。
突然の事だったので、俺は思わず後ずさる。
「おい、角田(すみだ)。そんなにポンポンとしゃべってんじゃねぇ。坊主が驚いてるだろうが」
釣り目の男性が、糸目の男性の広めのオデコにデコピンしながら、警察手帳を広げた。
「ま、こういうこった。俺は佐々木(ささき)、で、こいつが角田。ちょいと話を聞きたくてな。時間いいか?」
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