◆雑多集 未来を視る者9 ※ ドクドクと聞こえる鼓動。 その音に混じって、雨音が聞こえる。 閉じていた視界が広がると、そこには見覚えのある風景が目に映った。 豪雨のような雨。 寝静まった住宅街。 道路脇に転々と立っている街灯。 後方から、車のヘッドライトが辺りを明るくする。 それによって、更に道の端へと移動する映像。 ――間違いない。 これは、あの時の……岩崎さんが亡くなった時の映像だ。 なぜ、こんな突然にこの映像が? 再び見るなんて、今まで無かったのに…… 車のエンジン音が間近に迫ってくる。 ――今は考えるのは後だ。 少しでも犯人の手がかりを見つけないと。 真横を白い車が、通り過ぎて行く。 車のナンバーは…… くそっ、見えない。 もう少し視線を動かせれたら確認出来るのに。 先の十字路で車がUターンする。 ――そして、徐々にスピードを上げ、こちらに向かってきた。 向かいから煌々と光るライトが俺を照らし出し、視界が狭まる。 眩しくて車は勿論、運転している人物も確認出来ない。 ドンッ!!! 車と人がぶつかる音。 衝撃で、身体が跳ね飛ばされ、早いスピードで、視点が動く。 その一瞬、身体がヘッドライトの光から逃れた。 そして視界の端に、見覚えのある人物が、車のハンドルを握っているのが見えた。 ――!? 黄色い雨粒。 点滅する街灯。 逃げるように去っていく車のエンジン音。 大粒の雨が地面の上をはねる音。 直接身体に当る雨の音。 その中で、小さな、小さな声で、一人の名前が呟かれた。 「――美穂――」 視界が一気に現実へと戻る。 目の前には、岩崎さんが白い布団で横たわり、線香の香りが鼻腔を刺激した。 ドクドクと早鐘のような心臓の音がやけに耳に付く。 今のは、夢? だが、あの声は、紛れも無く岩崎さんの声だった。 死の最後に呟かれた美穂の名前。 「――岩崎さん……貴方は……」 スッと、障子が開かれた。 「……美穂さん」 美穂は、苦笑いを顔に浮かべ「お待たせ。」と言いながら、俺の隣に静かに腰を下ろす。 「真君、一人にしてごめんね」 「……いえ」 ――っっ!! 再度の頭痛に俺は顔を顰め、両腕で頭を抱えた。 なんだ!? またなのか!! 視界が閉じ、直ぐに開ける。 そこには、綺麗な水色の空が一面に広がっていた。 ※ [前へ][次へ] [戻る] |