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◆雑多集
未来を視る者8


白い布団に横たわる岩崎さんは、眠っているようだった。
もう、二度と起き上がらないのが不思議な程だ。

「……死んでるって感じがしないでしょ?」

美穂がポツリと呟く。

「気持ち良さそうにさ、寝てるようにしか……見えないんだよね」

美穂の目に、涙が溜まる。
涙は、見る見る膨れて、頬を伝った。

俺は、美穂から視線を外し、岩崎さんが眠る布団の横に腰を下ろすと、そっと、岩崎さんの顔を覗きこんだ。

つい、先日まで血の通っていた肉体は、青白い顔をしているという訳でもなく、頬は、ほんのりピンクがかって見える。


……だけど……


あきらかに生気を全く感じない。


此処にあるのは、大事なモノが抜け出てしまった、ただの入れ物だ。

なぁ、岩崎さん。
貴方は、なんで殺されなきゃいけなかったんだ?
なんで、……悲しませる人を置いて、居なくなってしまったんだ?


ズキッと、痛んだような気がした。


胸?

……いや、これは頭……か?


「美穂ちゃん?」

襖の向こうから、先程の女性の声が聞こえてきた。

美穂が返事をすると、スウッと襖が開かれ、申し訳なさそうな表情の女性が顔を覗かせる。

「ごめんなさいね。警察の方が、美穂ちゃんに聞きたい事があるそうなの、少しいいかしら?」

「……警察……」と、美穂は怪訝そうに眉根を顰め、ポツリと呟く。

「……判りました。真君、ちょっと行ってくるね」

美穂はそう言うと、俺の返事も聞かずに女性と共に部屋を出て行った。


警察は美穂に何を聞きに来たのだろう……
岩崎さんと親しい間柄だったから、身辺の情報でも聞きに来たのだろうか?
……捜査の方はどうなっているんだ?
あれは事故なんかじゃない、れっきとした殺人だ。
警察は、キチンと気付いて……いるのだろうか?


急にシンと静まり返った部屋。
ここにあるのは、俺の生気と岩崎さんの死気だけだ。

俺は改めて、岩崎さんの死に顔に視線を留めた。

少し微笑みを浮かべて眠る岩崎さんの表情は、本当に安らかで……殺されたという事実が、嘘のようだ。

家族や友人……恋人。
生きていれば、手に入ったかもしれない輝かしい未来。

「……悔いは……なかったのですか?」

小さな声でポツリと呟いた言葉は、吸い込まれるように周囲に消え、また静けさが支配する。

ドクリと心臓が波打った。

……そして、あの痛みが俺を蝕んでいく……





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あきゅろす。
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