◆一輪の花?(エムペ版)
C
「香山君。何をしているんですか」
ため息混じりの声が、香山先輩を呼ぶ。
「おや、美咲君。何って、尾崎君を暖めてるんですよー」
ヘンリーネックのシャツにグレーのカーディガンを羽織った美咲先輩が、呆れた様子でこちらに向かってくる。
そんな美咲先輩を目にし、心底安堵する。
「美咲先輩ぃー」
美咲先輩なら、香山先輩をなんとかしてくれるはず。
私は“助けてください”という念も含め、美咲先輩に視線を送る。
視線が交わると、美咲先輩は困ったような微笑を見せた。
「香山君、尾崎君を離してあげて下さい。そんな風に暖めるよりも、お風呂にでも入ってもらった方が効率的ですよ」
香山先輩は考え込むように暫らく間をあけてから、のんびりと口を開いた。
「あー、それもそうですねえ。すいませんね、尾崎君。僕、気付きませんでしたよー」
私の身体に回していた腕を解くと、香山先輩は少し照れながら微笑んだ。
香山先輩は少し――天然っていうのかな?
不思議な人だけど、悪気があった訳でもなく、どちらかというと善意でしてくれた事なので「こちらこそお気遣い有難うございました」と、お礼を述べ、頭を下げた。
「尾崎君っていい子ですねえ」
やんわりと、下げていた頭を香山先輩の温かい手で撫でられる。
今日だけでも、頭撫でられたの二人目だ。
私の頭はそんなに撫でやすいんだろうか……
「ああ、そうだ。尾崎君、身体を温めてからでいいから、後で私の部屋に来てくれないか?」
美咲先輩のお誘いは、おそらく今回の件の報告の事だろう。
「判りました。では、後ほど伺います」
私は、軽く二人に頭を下げ、自室へと急ぐ事にした。
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