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◆一輪の花?(エムペ版)
B


黒色の格子と強化ガラスで出来た少し重みを感じる寮の扉を押し開き、エントランスに入ると、私服姿の香山先輩が落ち着かない様子で立っていた。

「香山先輩?」

声を掛けると、香山先輩は足早に近付いてくる。

「尾崎君、美咲君達から話は聞きましたよー。大変でしたねえ」

「あ、いえ、仕事ですので」

もしかして、香山先輩が此処に居たのって、わざわざ私を出迎える為に?

「あぁー、制服濡れてるじゃないですか。駄目ですよー、女の子は身体冷やしたりしちゃ」

香山先輩は、おもむろに腕を伸ばし、私の肩を引き寄せた。

不意打ちだったので、私はそのまま香山先輩の腕の中に抱きとめられる形になる。

頬に香山先輩が着ている肌触りのいい白色のパーカーが当たり、触れているところから、じんわりと染み渡るように暖かい体温が伝わってきた。

――えーと、私は何故、抱きしめられているのだろうか。

背中に嫌な汗が浮かぶ。

このままだと、香山先輩の服まで濡れてしまうので、急いで身体を離そうと、身を捩ってみるが、私が動けば動くほど、香山先輩の拘束する力は強くなる。

しまいには「動いちゃダメですよ」と、耳元で囁かれた。

「……かっ、香山先輩?」

「なんですか?」

「えっと、あの、何をなさっているのでしょうか?」

「なにって、決まっているじゃないですか。冷えた尾崎君を暖めているんですよー」

そう言う香山先輩の表情は至って真剣そのものだ。

「暖めるって……」

――人肌で?

雪山で遭難した訳でもないのに?

若干混乱しだした思考を落ち着ける為に、軽く深呼吸をする。

どんな時も、気持ちを落ち着けて、冷静に対処をしなくっちゃ。

んーっと、こんな場面での対処法はどうするんだったかな……マニュアルを思い出せ――って、ンな事書いてないよっ!!




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