◆一輪の花?(エムペ版)
C
◆
ようやく嵐のような二人が去り、食事にありつけた。
目の前で、龍巳に無理やり進められた和食Bセットの焼き鮭を口に運ぶ尾崎は、箸使いが綺麗というか、動作や仕草が上品だ。
形のいい鼻梁に長いまつ毛、二重の大きな瞳に赤い唇……美人だよな。
身長も低めだし、身体も細い。
実は女でした。と、言われも違和感なさそうだ。
俺の視線に気付いたのか、尾崎は箸を止めて、柔らかく微笑む。
美人だけど、笑うと可愛いい。
これは、どう考えても危ないよなあ。
「なあ尾崎」
「なに?」
「秋月会長には気をつけたほうがいい」
「うん?」
よく判らないといった風に尾崎は首を傾ける。
「あー、つまりだ、その、秋月会長は両刀使いなんだよ」
「へえ、武術をたしなむ人なんだ。そう言われれば、なんだか強そうな人だよな」
俺の隣に座る龍巳が、ぶほっと、味噌汁を噴出した。
「龍兄、大丈夫?」
尾崎は驚きながらもブレザーに入れていたらしいポケットティッシュを龍巳に差し出す。
少しむせながらも、龍巳は「大丈夫」と、返事し、ちろりと俺を横目で見てきた。
判ってるよ。
尾崎に俺の話が全く通じてない事ぐらい。
出来れば遠まわしな言い方で気付いて欲しかったけど、仕方ない。
「あのな、尾崎、両刀ってそういう意味じゃないんだよ」
俺の言い聞かせるように、キョトンとした尾崎を見据える。
「秋月会長は、男女問わず口説いて回る超節操なしなんだよ。しかも、自分ご都合主義な考え方に加え、しつこいんだ。納豆以上に根性あるんだよ。俺もあの人にどんだけ迷惑かけられた事か。同じ生徒会役員じゃなきゃ、絶対に近付かねーよ。俺がどれほど殴りたいのを我慢しているか」
「こ、幸田君?」
「卒業式終わったら、五、六発殴るのが、最近のささやかな夢なんだよ。てか、こんな夢持つって、どーよ? 健全な高校生男児が、同性の先輩のセクハラに悩まされてるって、おかしくね? いくら男子校だからって……」
「おい、こら、圭一」
龍巳に軽く頭をはたかれ、我に変える事ができた。
どうやら俺の日頃の鬱憤が、一気に流れ出てしまったようで、尾崎は柳眉を下げながら、身体を乗り出し俺の手をとった。
「幸田君、凄く大変なんだね。僕もセクハラはよくないと思うよ。僕でよかったら力になるから。何でも言って」
真剣な眼差しで俺を見つめる尾崎は、今日出会ったばかりだというのに、俺の事をとても心配してくれてるようで、凄くいい奴だ!と、思わず感動してしまった。
ああ、でも、どうしよう、また俺の話伝わってない……。
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