◆一輪の花?(エムペ版)
放課後
◇
校舎三階、西日が窓から差し込む廊下を進む。
目前に立ちはだかる引き戸を前に幸田君は慣れた手つきでコンコンと軽くノックする。
すると中から『どうぞ』と、聞き覚えのある声が返ってきた。
「こんにちはー」
幸田君は戸を引き、戸惑いなく中に入って行く。
そんな幸田君に続き、私と龍兄も部屋に足を踏み入れた。
教室と同じ大きさの部屋にはデスクが五つ、お互いが向かい合うように並べられ、その内の三つの席で美咲、斉藤、香山の三人の先輩方がデスクに向かっている。
「ああ、来たようだね」
美咲先輩はパソコンのキーボードを叩く指を止め、こちらを振り返る。
そして、綺麗な眉間に微かにシワを寄せた。
「幸田君、私は若林君を呼んだ記憶はないのだが?」
「えっ、えぇっと……」
「俺が勝手に付いて来たんですよ」
言い淀む幸田君を庇うように龍兄は幸田君の前に立った。
美咲先輩は、苦笑いに似た笑みを浮かべる。
「まあ、いい。斉藤君、幸田君と共に資料室に行って、この資料を探してきてくれないか?」
そう言うと、斉藤先輩に紙面いっぱいに書かれたリストの書類を渡す。
斉藤先輩は相変わらずの無表情で「わかりました」と、頷き、幸田君の肩をポンと一つ叩いて部屋を出て行った。
「えっ、あ、えっと……」
幸田君はオロオロと私達と斉藤先輩が去って行った入口とを見比べる。
「幸田君、早く追い掛けないと斉藤君、先に行っちゃうよ?」
香山先輩が、ふんわりと微笑みながら優しい声色で促した。
「あ、はい。行ってきます!」
「えっ、待っ……」
幸田君は私が咄嗟に上げた声には気付かす、バタバタと足音を立てて斉藤先輩の後を追っていった。
――今、何者かに狙われている幸田君から目を離すのは危険だ。
私は幸田君の後を追う為、身体を翻し顔だけを美咲先輩に向ける。
「美咲先輩、申し訳ないのですが、話は後日に……」
「その必要はないよ」
私は走り出そうとした足をピタリ止めた。
「必要ない?」
「うん。斉藤は大体の事情を知っているし、そこそこ腕も立つ」
龍兄は腕を組み、私にニッと笑いかけた。
「知っている?」
「そう、知っている。それに美咲や香山も知っているよ」
私は龍兄から美咲先輩と香山先輩に視線を移す。
「ま、そういう事だ」
「だから安心してねー」
美咲先輩は優美に微笑み、香山先輩は、どことなく楽しそうに笑った。
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