集い ☆ それぞれ、ラフな普段着に着替え、ケイトの案内で連れられてこられた場所は、豪邸の御宅訪問なんかのテレビ番組に出てきそうなリビングっぽい場所だった。 面積は……四十畳程あるのだろうか、所々に点在する、見るからに高価そうなソファーとテーブル。 まず、何処に座ればいいのか迷いそうだ。 部屋の端っこなんかが、気分的に落ち着くかもしれない。 庶民出の俺には、広い部屋は、どうも慣れないのだ。 開け放たれた扉から見える隣室にはビリヤード台や、バーカウンター、大きなスクリーン等々が置かれているのが伺える。 どうやら、ここは娯楽室みたいな所なのだろう。 ここの建物は、主に要人の警護に用いられると聞いた事がある。 シェルター内でも楽しく過ごしてもらえるようにとの配慮なのだろう。 「社長から預かっている伝言を先に申し上げます」 相変わらず抑揚の無いケイトの声が広い室内に響いた。 皆の視線が、ケイトに集まる。 ケイトは一つ咳払いをすると、カッと眼を吊り上げ、口元を歪めた。 「『ガキ共に飲ませる酒は無い。どうしても飲みたいというのなら、名乗りを上げろ。俺様が教育的指導ってヤツをやってやる。アバラの二、三本、折ってしまえば、酒が飲みたいなんて思わんだろ?あぁ、それから、明日も五体満足で生きていたいのなら……必要以上に凛に触れるな』」 ギロリとケイトに睨みつけられた俺の背筋に、冷たいものが這い上がってくる。 凄い……ケイトと朔の姿がダブって見える。 それはもう、朔の生霊がケイトに乗り移ったと言っても納得出来る程に。 他のメンバーも心なし青ざめた顔色をしているような気がする。 ――どうやらケイトは、女優も裸足で逃げ出してしまうんじゃないかと思えそうな程の演技力を身につけているようだ。 台詞と共に朔の威圧感も見事に再現したケイトは、スッと波が引くように普段の表情に戻った。 「だ、そうです。では、皆さん飲み物は何になさいますか?オーダーはこちらのリストからお選び下さい」 何事も無かったかのようにケイトはリスト表を手際よく俺達に手渡していく。 未だ引かぬ冷たい汗を感じながら、リストを眺めていると、Tシャツにハーフデニムパンツといった普段着を身に纏った凛が、ひょっこりとやってきた。 「あ、やっぱり皆さんもう集まっていたんですね。遅れてスイマセン」 苦笑いを浮かべる凛に、美咲が優美な笑みを向ける。 「いや、我々も今来た所だ。もう、尾崎氏の話は終わったのかい?」 「はい」 返事をする、ホンの一瞬、凛の瞳が揺らいだ気がした。 だが、凛は普段どおり穏やかに微笑でいる……見間違いだったのだろうか。 「ケイト、準備有難うね。大変だったでしょ?後は私がするから、ケイトは休んでいて」 「これぐらい、なんともないわ。本当はここに残りたいのだけれど……仲間同士の再会を祝したパーティですものね。外部の私がここに残るような無粋な真似はしないけれど……でも、気をつけてね」 「うん?」 ケイトの言っている意味が、よく判っていないのか、凛は、軽く首を傾げながらも、あいまいな返答をする。 そのしぐさに、表情に、キュンときた。なんかきた。 ――可愛いじゃないか。 「ああぁぁ、心配だわ。本気で心配だわ。やっぱりカメラ作動させておこうかしら……」 ブツブツ呟き、尚且つ頭を抱えながら、ケイトは部屋を出て行った。 最後の言葉が気になる。 カメラって、まさか…… 周囲を、特に四隅なんかを見渡して見るが、それらしき物は見当たらない。 もしかして隠されている――のか? 「不用意な行動は避けたほうが無難ですね。特に会長」 ついと、美咲の視線が秋月へと注がれる。 「大丈夫! 大丈夫! あははー」 判っているのか、判っていないのか、判別のつかない態度の秋月に、皆、小さく溜息を吐き出した。 ☆ [前へ][次へ] [戻る] |