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ミーティングルームにある兄専用の革張り椅子に深々と腰を下ろした、椅子の持ち主が、徐に口を開いた。
「劉 彗蓮が後継者候補に残ったらしい」
「スイが後継者候補に? ……そっか、夢に一歩近付いたんだね」
スイ――劉 彗蓮の家、劉家はアジアを中心としたウエディング関連の会社を経営している。
ドレス衣装から、結婚式のプロデュース、新婚旅行や新生活等のサポートまでと内容は幅広い。
そんな劉家の当主、つまり社長であるスイの父親が、病に伏した。
これを機に、後継者の選考が行なわれたのだが――
選考基準は、当主の血族者なのだが……息子の数だけでも六人、娘を入れると両手の指では足りないといった、大家族でもある。
それだけならまだ良かったのかもしれないが、この兄弟達は、それぞれ母親が違う。
そう、皆、愛人の子供なのだ。
やはり愛人の中には、金目当てで愛人になった人達もいる。
愛人だが母親でもある彼女達が、莫大な財産を手に出来る後継者の座を子供に持たせたいと思うのは当然の成り行きで、後継者バトルが勃発してしまったのは、言うまでも無い。
中には、暗殺者を雇い、殺害しようとする者までおり、スイ自身も、暗殺者に狙われていた被害者だ。
そんな状況を重く見た当主は、暗殺、危害を企てた者は、後継者候補から外すと宣告したのだが、時既に遅しく、暗殺者達は既に放たれていた。
そこで暗殺者や危害から子供達を守って欲しいと、当主からウチに依頼され、その依頼によりスイの元に私が派遣されたのが、私とスイとの出会いでもある。
「候補者は、三人まで絞られたそうだ」
「三人!? その三人の中にスイが残ったんだ、凄い!」
「……最終選考では、ある条件を元に後継者を決めるそうだ」
「条件って?」
「劉家にとって最高の結婚相手を見つける事。だそうだ」
結婚!?
口を開くが、衝撃的な内容のせいか、中々声が出ない。
「結婚までは、いかなくても、婚約者を見つける事が条件らしい」
「こ、婚約者って、そんなスイは……」
「凛、最高の結婚相手の条件って、なんだと思う?」
兄の目が私を真っ直ぐに見つめてくる。
“家”にとって、最高の結婚相手。
それは家の存続と繁栄の為になる相手という事。
「家柄や資産を持った……“家”にプラスになる相手」
あれ?もしかして、スイが突然、ココに来た理由って――
「スイの秘密を知り、尚且つ財閥の娘。スイにとって最高の結婚相手はお前だろうな」
そうか、だから今回の仕事には拒否権があったんだ。
この仕事を引き受ければ、スイにとって絶好のチャンスであり、恐らく、私に婚約の話を持ちかけてくるであろう。
選択を迫られるならまだしも、もしかしたら強硬手段に出てくるかもしれない。
スイとは友人だが、スイが夢の為に掛ける想いは強固なものだと知っている。
それこそ、私との友情を壊してでも貫こうとするだろう。
「凛、一つ言っておく」
知らぬ間に俯いていた私の顎先を軽くつかまれ、兄と無理やり向かい合わせられた。
「両親も俺も、お前の結婚相手を決めるつもりは無い」
「兄貴?」
ワイシャツに包まれた兄の体が、目の前に迫り、胸元に押し付けられるような形になる。
「お前は、お前が選んだ相手と結婚すればいい」
言葉が私の身体に響き渡る感じがした。
私は、愛されている。
両親から兄から、沢山の愛情を貰ってきた。
それこそ返しきれない程に。
どうすれば、この愛情を返せるだろうか……私に出来る事など、ホンの一握りにしか過ぎないだろうけど、それでも出来うる限りの恩返しはしたいと思っている。
兄に言えば、そんなもの要らないと突っ返されそうだが、それでも――
「凛、最後にもう一度聞く。この依頼、引き受けるか、断るか……どうする?」
私は、目の前にあるワイシャツをギュッとつかみ、顔を上げる。
「私――」
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