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◆死灰屠り(完/連)
第二十一話
◆◆





ドクリドクリと熱いものが、腕を伝っていく。

負傷した右肩は、えぐられたような傷となっていた。

どうやら、肉ごとあの髪に持っていかれたようだ。

傷は‘痛い’と言うより、燃えるように熱く感じる。

春日は、少しずつ身体の動きが鈍くなっていくのを感じながらも、次々と襲い掛かってくる髪の束を切り捨てていく。

『くくくっ、女子を残して逃げるとは、あの坊や、随分と薄情よなぁ?』

愉快そうな声で響く言葉に、春日は瘴気を睨みつけた。

「違う」

『違うもんかい。現にあの坊やは傷ついた、お主を置いて、さっさっと尻尾を巻いて逃げおったではないか。所詮は人の子。自分が一番、可愛いのよ。例え仲間だろうと、自分の命の前では、塵も同然』

「……要は違うわ」

『ならば、何故、あやつは逃げたのだ?例え、おぬしが逃げろと言うた所で、真の仲間なら共に残るものだろう?おぬしは見切られたのだよ。見捨てられたのさ』

「貴女の口から“真の仲間”なんて言葉がでてくるとはね……。でもね、要は違うわ。私を見捨てたんじゃない。要は、貴女の言う“真の仲間”だからこそ、私の為に、自分の気持ちを押し殺してまで、逃げてくれたのよ」

『ほう?』

その言葉と共に、瘴気の中心から、二人の巫女が姿を現した。

恰幅のよい巫女の背後に沿うように細身の巫女が立つ。

『その割には、随分と辛そうじゃないか。そろそろ楽にしてやろうか?』

太った巫女が、口角を吊り上げながら楽しそうに笑う。

春日は、乱れた呼吸を整えながらゆっくりと、言葉を紡いだ。

「そうね、要が逃げてくれたお蔭で、巻き込まなくて済むわ」

刀から青白い炎が揺らめき、炎は春日を取り巻くように動く。

「……紅焔を……開放出来る」

その言葉に呼応するように、青い炎は、紫を帯び、次第に鮮血のような赤に変わった。

春日の優美な顔が、赤い炎に照らし出される。

「さぁ、決着をつけましょうか」


◆◆

青みがかった街灯が、頼りなげな光を発し、行く先を申し訳ない程度に照らしている。

人の姿のない深夜の住宅街は、まるでゴーストタウンのようだ。

俺は、車を停めた場所に向かって走りながら、ズボンのポケットに入れていた携帯電話を取り出した。

一刻も早く、右京達を呼ばなくてはならない。

メモリーを呼び出し、ダイヤルボタンを押そうとした時、何かが視界を掠めた。

咄嗟に携帯画面から目を離し辺りを伺う。

すると、携帯電話を持つ腕に鋭い痛みが走った。

「いっっ!!」

突然の痛みに持っていた携帯電話が、固いアスファルトの上に音を立てて落ちる。

痛みの走る腕を見ると、あの巫女達に付いていた、奇怪な化け物が、鋭い歯で噛み付いていた。

「なっ!?」

俺は、噛み付かれている腕を勢いよく振り払う。

化け物は、軽い身のこなしで、俺の腕から離れると、ヒラリと街灯の上に着地した。

口角が裂けたような口から、キキッと甲高い声が聞こえてくる。

「お前、あの巫女の仲間か」

化け物は、俺の問いかけに吊り上った目を厭らしく細めると、ピョンとこちらに飛び掛ってきた。

俺は、反射的に後ろに飛び避ける。

その拍子にズキリと腕が痛んだが、そのまま胸ポケットから札を取り出し身構えた。

だが、化け物は俺には目もくれず、アスファルトに転がったままの携帯電話を手にし、突然、口をガバリと開ける。

「えっ……あ、ちょっ、まった!!」

嫌な予感がし、俺は、制止の声を上げるが、空しく響いただけで、化け物は全く意に介した様子もなく、携帯電話に鋭利な歯を突き立てた。

バキッ!ガキッ!と、不快な音を立てて携帯電話は無残な姿になっていく。

「……マジかよ」

俺は、ガックリと肩を落とし、あまりにも衝撃的な事態にクラクラとする頭を抱えた。





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