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◆死灰屠り(完/連)
第十九話
◆◆


通された部屋は、最上階にあり、部屋の窓に広がる光景は、思わず駆け寄りたくなるぐらいには見晴らしがよい。

現に角田は、眼を輝かせ、窓辺に張り付いている。

手前にある大小様々なビル群の奥に規律よく並ぶ住宅街。

更にその奥では、山の緑が輝き、透明に近い青空が広がっている。

無邪気に風景を眺めている角田を見ながら、佐々木は呆れたように溜息を吐き出した。

「すまんな。あのハゲは、放っておいても問題無い。先に進めてくれ」

佐々木は、片手でタバコを取り出しながら、空いた手を、ひらひらと揺らした。

「判りました」

苦笑を浮かべた右京は、白髪の混じった男性に促されるまま、室内に置かれた椅子に腰を下ろした。

左京や春日は、右京の背後に立ち、俺も共に立ち並ぶ。


室内は、学校の教室ぐらいの広さがあり、グレー色の長机がロの字に設置され、キャスター付の椅子が等間隔で置かれている。

ホワイトボードやプロジェクター等が置いてある事から、ここは会議室として使われている場所なのだろう。

右京の斜め向かいに座った白髪の混じった男性は、津田 朋久(つだ ともひさ)といった。

津田の隣に座った男性は、福原 準一(ふくはら じゅんいち)。

事件当日、車の運転席から飛び出してきた男性だ。

田所氏を含め、この三人はシンセリティ製薬の営業部で、公私共に田所氏とは仲が良かったのだという。

「津田さんの紹介で、ウチに依頼をなさったと聞きましたが」

「はい、田所から相談を受けまして、どうしたものかと悩んでいた時に、以前に父がマカミさんの世話になったことを思い出しまして。それでそちらに」

津田の言葉に、ふと違和感が湧き上がる。

「まかみ?」

俺と同じ違和感の種を口にしたのは、角田だった。

窓辺に居た角田は、いつの間にか津田の近くに佐々木と並んで立っていた。

「ええ、マカミです」と、津田は振り返り答える。

「まかみって、真上探偵社の事ですか?」

「まがみ探偵社って……ああ、ストーカー調査とかで有名な。いえ、良く似た名前ですが、違いますよ」

角田は眉を顰め、俺達と津田に困惑した瞳を交互に向ける。

「まかみは、真実の真に神様の神で、真神(まかみ)です」

俺の隣から、凛とした春日の涼やかな声が聞こえた。

春日は、少し伏せがちに、角田達を眺めている。

「真神は、昔からある拝み屋なんです」

真神、拝み屋――ああ、少しずつ靄がかっていたモノが見え始めてきたような気がする。

俺は、心音が少し早まった胸元を掴んだ。

「でも、君達は真上探偵社の……いだっ」

角田は、額を押さえ佐々木を恨みがましく見上げた。

どうやら、佐々木お得意のデコピンが、炸裂したようだ。

「皆まで聞かずとも、それぐらい察知しろ。お前も一応、刑事の端くれだろうが」

「構いませんよ、佐々木さん。最初に角田さんとは真上の従業員として出会っていましたからね。混乱されても仕方ありませんよ」

右京は、机の上で軽く両手を組み、少し身を乗り出すように座りなおした。

「元々、真上探偵社は、真神の情報収集の礎として建設されたものでしてね。なので、真上と真神は繋がっているんです。我々は、真上と、真神両方を兼任しているんですよ」

「へえ、そうだったんですか。このこと、佐々木さん知っていたんですか?」

佐々木はタバコを口に銜えたまま「まあな」と答え、角田から顔を背けた。

「なんで、僕に教えてくれなかったんですか。ずるいですよ」

じっとりとした恨みを含んだ目で佐々木を睨むが、睨まれている本人は至って涼しい顔だ。

「別に知らなくても支障はないし、俺が知ったのも今朝だからな。それよりも、こんなハゲに構ってないで話を進めてくれ」

「ハゲたのは、佐々木さんがあぁ」

佐々木に口元を塞がれ、強制的に黙らされた角田は、モガモガともがいている。

「なんだかんだいって、あの二人いいコンビよね」

ポツリと呟かれた左京の言葉に、俺はしっかりと首を縦に振った。


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