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廻るびぃだま
黒いびぃだま

 びっしり生える苔の横、りのはヴェリタの腕を引いて進む。
「いやぁ、それにしても随分苔って生えるもんなんだなぁ」
 苔の生えた道の脇には、背の高い木々が連なっている。
「しかし、妙だとは思わないのか?」
 彼女はというと…下を向いたまま進んでいた。苔のことが頭から離れないようだ。
「何が?」
 コイツは気付いていないらしい…。
「考えてもみろ…魔力を発する苔なぞ、普通のものでは無いだろう?」
 ヴェリタの言うことは最もだ。
「でもさ…この土地の水って、普通の水じゃあないから、その水だけを養分にするとかは?」
 りのの言葉に、ヴェリタは黙ってしまう。それでも、彼女は自分なりに考え答を述べる。
「しかし…今では水もそれ程力は持たない。
 ジェニファー殿やデルフィーヌ殿も、そう言っていた筈だ」
 その考えを聞いて、りのは、そっか、と相槌を打つ。
「じゃあさぁ、ヴェリはなんだと思う?」
「そうだな…可能性として考えられるのは、魔物が道を作った、ということもあり得る」
 いいか? と、ヴェリタは一旦立ち止まる。
「もし、他の冒険者が我々と同じく、この道を見つけたとする。
 中にはりののように、苔の生える場所を沿って進む者も出るだろう」
 つまり、と、彼女は腕を組んで結論を語る。
「りののように、『興味本位で入る冒険者』を捕食しよう、という魂胆だろうな」
 りのの顔が一気に青ざめた。
[ごめん、ヴェリ]
「まぁ、そのときのガードナーが私だからな」
 それに、とヴェリタはりのを見て言葉を続ける。
「りのの能天気は治らないだろうから、始めから気にしていない」
 りのは『心に』打撃を食らった。
[キツい、キツ過ぎる]
 地の文が言うのも難だが…当たっている以上、諦めろ。
「とりあえず、先へ進むぞ」
 進むヴェリタにりのはちょっと待て、と声を掛けた。
「なんだ? 今更戻るのか?」
 りのが彼女の進む向きと逆の方を指差した。
「道逆ッス」
 今度はヴェリタがりのの腕を掴んだ。

 苔の絨毯が途切れた場所には、動く蜜柑色の茸がいた。一瞥すれば分かる‐
「魔物だな」
 茸はこちらには手を出さず、呑気に腕だか足だかで、目玉の模様が付いた笠を押さえている。
「えーと、あれは?」
「マッシュファングだ」
 彼女が答えるなり、りのはそうだそれだ、と言った。
「全部のエリアを回ったと思ったら、此処をスルーしてたのか」
「いや…そもそも、此処へ来る道があったのか?」
 その問いにりのは決まってんじゃん! と自信満々に答えた。
「勿論地図に‐…無いや」
 空気が凍り付く。それでもヴェリタは慌てなかった。
「そんなことだろうと思った。
 りのはいつも自信過剰だからな」
 そう言い彼女がりのの前に出た。
「下がれ、りの。
 今度は私が魔物を倒す」
 彼女が刀に手を伸ばした。すると、鯉口の上に白い光が零れた。
 マッシュファングが二人に目を向けると、ヴェリタが刀を構える。
「じゃ、任せるぜ?」
 背を向けながら掛けたりのの声を合図に、マッシュファング達はヴェリタに飛び掛かった。
 時が緩慢に過ぎる…誰にだってそう感じる瞬間‐
「その程度で勝とうなど‐」
 真ん中のマッシュファングが‐
「思い上がるな」
 笠だけ…右にズレた。切り口から黒い蝶が飛ぶ。
 ひゅう、とりのが口笛を吹くなり、両側のマッシュファングも、上下に真っ二つになった。
「『次の型‐」
 ヴェリタが鞘に刀を戻した。鍔と鯉口が当たり、金属音が聞こえる。
「‐胡蝶嵐』」
 本体が落ちる前に、マッシュファングは蝶になって消えた。
「いつもながら鮮やかな手際だな…おこぼれすら来ない」
 話の流れからすれば、やれやれ、と言いたそうだ。
「貶しているのか?」
「そりゃあ思い違いだな。ガードナーが強いのは善い事だ」
 が、只の皮肉のようだ。
「お前…私が何を媒体にして‐」
「ちょっとちょっとヴェリ、足元なんかあるから」
 ヴェリタは気付かなかった。当然‐
「うわっ!?」
 コケた…盛大に。
「駄目じゃんか…ん?」
 りのの顔が真っ青になった。
「どうかしたか?」
「ぎゃーす!!!」
 引っ掛けた ブツを見たり 人の腕。


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