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廻るびぃだま
二粒のびぃだま

 吹き抜ける、風の音が聞こえる。
「うをーい」
 …誰かの呼び声を乗せて。
「ヴェーリター、そっちは行き止まりだっぺな」
 長く美しい黒髪の女性は、弾かれたように顔を上げた…其処には鼠色の象程の岩。
「おめぇさ地図見でも無理だんべ?」
 ヴェリタと呼ばれた女性の後ろには…訛りに訛った言葉を話す、茶色い癖毛の人物がいる。
「ほれ、貸してみんさい‐あだっ!?」
 癖毛の顔面に地図が直撃した…その上、鼻にブツの中心が当たり、癖毛の目の前は地図のみ。
「ヴェリ…地図はパイじゃあないぞぉ?」
 癖毛はそんなボケをかますが…仮にあったとしても…今の御時世、そんなことをする人物がいるだろうか?
「黙れ!」
 ヴェリタは未だ地図を外さない癖毛に、剣を鞘の付いたまま当てる。
「りのが安請け合いしなければ、こんな奥地に来なくても良かったのだ!」
 彼女は方向を間違えたことによる羞恥と、癖毛‐りのの杜撰な性格に対する憤り…この二つによって、彼女自身の周りに蒸気が出ていた。
「仕方ねーじゃんよー、だってジェナさんの頼みだからさー?」

+†+〜+†+〜+†+〜+†+〜+†+〜+†+〜+†+

 事は現在より数十分程は遡る。
「伝説の薔薇『アクアルナ』?」
 短い茶髪が特徴の、紺色のメイド服の女性は、えぇ…の一言だけで応えた。
「ジャムを作ろうとしたリナちゃんから、「材料の薔薇の花『アクアルナ』が足らない」とのことです」
 彼女の話を聞き、りのは頭を縦に振る。ヴェリタはというと、手を挙げて彼女に問う。
「ジェナ殿にお聞きしたいのですが…アクアルナなる花、一体何処にあるのですか?」
 メイド服の女性‐ジェナは二人に地図を渡した。
「見た目は青い薔薇だから、地図の印当たりを中心に‐」
 ジェナにっこり。
「頑張って探して下さいね♪」
 暫しの沈黙が空気に溶け、次第にそれは濃くなっていく。
「と、いうワケで…いってらっしゃい」
 ジェナの笑顔から、あるものを感じ取る。
「う‐」
 ヴェリタは固まっていた。
「嘘ぉん…!!!」

+†+〜+†+〜+†+〜+†+〜+†+〜+†+〜+†+

「ひでーよ、ジェナさんてば」
 風を切る音がした。
「お前が首振りっ放しで、話を鵜呑みにしていたからだろ」
 りのは目の前の鬼女を見て、顔から血の気が失せた…怒ってる入ってる。
[ハイ、スンマセン]
 彼女は顔が引きつった挙げ句、後退りした。
「全く…私もよく此奴に付いて行く」
 嗚呼嫌だと言わんばかりに、ヴェリタは目頭を押さえた。
「ま、過ぎたことを悔やむのは止めようか」
 りのはたった一人の連れの肩に腕をまわした。
 しかし、その腕は直ぐ離れ…よく見ると絵本を持っていた。
「それでは始めようか。
 貴女が主役のショータイムを」
 りのの持つ絵本から、勢いよく栞が抜けた。

 絵本から栞が抜かれると、ヴェリタから淡い光が放たれる。
 しゃらん…と鈴の鳴る音がすると、次いで、光から風の掻き消える音も聞こえた。光はそれを合図にヴェリタの周りから消える。
 光から現れたヴェリタは‐
[やっべぇ]
 蝶をあしらった、髪と同じくらい黒い着物と袴を着ていた。
[何時見てもかっけぇ!]
 しかし…袴の上にはエプロンだ。何処が格好いいのだろうか?
「さて…さっさと『アクアルナ』を探‐うひゃあっ!?」
 ヴェリタは間の抜けた声を上げた。
「ぎょっ!? アイバット!?」
 青く丸い体に蝙の翼の魔物らしきものは、ヴェリタに寄って集る。
「い、今助け‐ぎょぎょっ!?」
 りのを見る目は
 ………
 ……
 …
 アイバット六匹に対しアイバッツアイ六つ。しかも、体を占める瞳が半月と三日月の間…怒り心頭のようだ。
[うわぁお]
 だが、りのとしてはヴェリタに怒られるのことは『もっと』嫌なので、りのは嫌々簡素な棒を振り回す。
「てやー」
 こころなしか…声に覇気が全く無い。しかし、りのが叩き続けたこともあり、既にアイバットは地に伏せていた。
「あー、疲れた」
 りのがそう愚痴るなり、ヴェリタは済まぬ、と小声で詫びた。そんな彼女の顔を見たりのは、何も言わず、唯微笑(ワラ)った。
「気にしないでいいよ…困ったときはお互い様だしさ」
 行こうか、とりのに言われ、ヴェリタは素直に付いていった。

 時間が流れ、一時間後。
「ふむぅ…中々見つからぬな」
 二人の調査は見事に難航していた。
「カマキリのトコにも無かったよな?」
 通れる所は全て通ったらしい…辺りを見回し分かる事、それは此処がアイバットの出た場所という事だけ。
「「何故だ!?」」
 知らん。
「ムキー!!! お?」
 りのが何かを見つけたらしい。目が下を向き、それから横へ動いている。
「なんだこりゃ?」
 目の先には、黄緑色の絨毯があった。ただ、この絨毯は曲がりくねっている上、厚さは不揃いに見える。
「なぁなぁ、ヴェリ」
 りのは相棒に話してみた。
「これ…触ってみ?」
 そう言って、りのはヴェリタの腕を掴んだ。
「な、何を? ‐っ!?」
 彼女は眉をひそめた。
「この苔…魔力を感じるな」
「え? マジで?」
 苔の線は…道を作っていた。
「なぁなぁ、ヴェリ」
 さっきも聞いた、この言葉。
「此処通っていい?」
 りのよ…お前という人間は、ヴェリタがいないと何も出来ないのか?
「ふむ…致し方無い‐」
 通ってみるかと言うより先に、りのは、うっしゃあ! と叫んだ。しかも再び腕を掴んでいる。
「それじゃあ行ってみよー!!」
 そう言って、りのはヴェリタの腕を引いて苔の上を進んでいった。

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