小説2 我儘なのは…… 「暑くなりましたよね〜。私ん家、もうエアコン使ってるんですよ〜」 始業前の職員室。他愛も無い会話。 それでも、相手が女性教師ならば、シャマルにとっては幸福な時間。 「1人暮らしで動物を飼うと、空調には気を付けなきゃいけないから」 『世の中のエコ活動に反しちゃって』と、にこやかに笑う。 「あ〜わかります。動物は厄介ですからね〜」 「あら、シャマル先生も何か飼ってらっしゃるんですか?」 「あ〜……。毛色の珍しいのを」 『何の動物ですか?』と続いたところで、チャイムが鳴る。 「あら、じゃあ失礼しますね」 女教師は教材を手に、職員室を出て行く。 ―――前夜――― 「ほれ、終わったぞ」 ぽちぽちと、携帯を操作する隼人。その頭に浴びせていた温風を、ドライヤーのスウィッチをOFFにして止める。 「ん……」 ぱちんと携帯を閉じ、小さな欠伸を漏らしながら寝室に行く。 お休みのキスをして、その先の行為は我慢して―――明日も学校が有るから―――ベッドの中で、居心地の良い態勢を作って眠る………のだが……… 「暑い、離れろ」 「ん?」 腕の中でごそごそ身動きして、胸を突き放す様に押す。 確かに、春から初夏に向けて、日々気温は上昇している。 でも、夜はまだ僅かに肌寒い。少なくとも、『暑い』と言う程では無い。 「大人しくしろって」 「だから、暑いんだよ!シャマルの体温が暑苦しくて、寝れねーんだよ!」 冬はぴったり引っ付いて暖を取るくせに。少し暑くなってきたからって、『暑苦しい』とは失礼な。 「無理です〜。俺、隼人抱いてないと眠れないし〜」 「馬鹿言ってんじゃねー!エロ医者!変態!」 ぐぐぐっと、抱き込む腕に力を入れれば、ぐいぐいと、胸を押す力が強まる。 「人を抱き枕にすんな!するなら、体温20度ぐらいに下げろ!」 いや、それ無理だろ。 呆れて腕の中の隼人を見るが、尚もぐいぐいと引き離そうとする。 あ〜……仕様が無いな〜。 隼人を手放し、ベッドから抜け出る。エアコンのリモコンを手に取って、スウィッチをONにする。 何かと体調の崩しやすい隼人の事を考えて、設定温度は高めに。ついでに加湿機のスウィッチも入れて、空気が乾燥しないようにする。 再びベッドに潜り込み、腕に隼人を抱き込む。 「エコって知ってるか?」 大人しく腕に抱かれながら、呆れた口調で言われる内容。 「我儘な坊っちゃんのせいで、忘れちまったな〜」 「『坊っちゃん』って言うんじゃねー!抱き枕状態じゃなきゃ、エアコン使う必要ねーだろーがっっ!」 『俺の我儘じゃなくて、シャマルの我儘だろ!』と悪態を吐くが、室温と体温が調度良くなったらしく、腕の中に収まった隼人は徐々に眠りの淵に落ちて行き…… END [*前へ][次へ#] |