6 「もう一度、言っていただいてもよろしいですか?」 「これからわしと共に東三条殿に赴いてもらう」 この人はいつも突拍子のない事を言ってくれる。思わず頭を抱えたくなったが、晴明の手前、そうするわけにもいかない。 晴明の部屋には、他にも勾陣と伝令をおおせ付かった太裳がいるのだが、二人は事の成り行きを見守る事にしたらしい。 「晴明様、私は……」 「先の一件での礼を言いたいと仰せでな」 先の一件とは、夜警の帰りに襲われていた所を助けた件なのだろうが、その場で礼は言われたはずだ。 自分はあまり人に関わらない方がいいだろうし、そのつもりもないし、何よりも激しくめんどくさい。 渋っているのを雰囲気で察した晴明は、持っていた扇子で口元を隠し、。 「行きたくないと言うならば仕方がない。大臣様にはわしが頭を下げるしかなかろう」 「えっと……」 「きっと大臣様は悲しまれるだろうが、本人が行きたくないと申しておるのを、無理矢理連れていくわけにはいかぬし」 「その……」 「ああ、気にしなくてもよい。大臣様には、誠心誠意お詫び申し上げる」 昌浩がたぬきと称するのがわかる気がする。 きっと扇子の裏の顔は、笑みを浮かべているに違いない。 「わかりました」 何かと世話になっている自覚がある晴明に、自分の為に頭を下げさせるわけにはいかない。 「では、参りますかな」 「はい」 結局は、断る術はなかったということだと自分を納得させるしかなかった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |