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牛車から顔を出したのは壮年の男性だった。

「お前が助けてくれたのか」
「そうですね」

誰だかはわからないが、位の高い貴族だろう。
襲われる位の貴族ならば、もっとしっかりした護衛をつければいいのに。

「助かったぞ、礼を言う」
「お怪我はございませんか?」
「うむ。お前のおかげだ」

主である貴族は全く無事のようだが、護衛やお付きの者は怪我をしている。

それにしても貴族相手なのはめんどくさい。このまま放置して帰るわけにはいかないだろう。

「………ご自宅までの護衛は必要でしょうか?」
「供の者に人を呼ばせてはおるが……。お主、腕が立つのだな。」
「それ程ではございませんが」
「私に仕える気はないか?」

やっぱりというか何と言うか。

「申し訳ございませんが……」
「そうか。無理にとは言わないが……」

本気で残念そうにしている男性に多少心が痛むが、すでに自分は仕え人なのだし。

道の向こう側が騒がしくなってきた。
呼びに行った者が人を連れて来たのだろう。

「人が来たようですし、もう大丈夫そうですので、私はここで失礼いたします」
「そうか。もし、気が変わったら私の東三条の屋敷を尋ねて来るがいい」

礼をもって返し、背を向けて歩き出す。
何はともあれ、人助けをしたのだからいいとしよう。

「ん? あの人、東三条の屋敷って言っていたけど」

東三条の屋敷といったら東三条殿のことだろうか。
だとしたら、あの人は。

「藤原道長とか?」

天上人も天上人ではないか。
凄い人と会ったという事でいいとしよう。
そう言い聞かせて、自分の屋敷へと戻っていった。




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あきゅろす。
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