5
牛車から顔を出したのは壮年の男性だった。
「お前が助けてくれたのか」
「そうですね」
誰だかはわからないが、位の高い貴族だろう。
襲われる位の貴族ならば、もっとしっかりした護衛をつければいいのに。
「助かったぞ、礼を言う」
「お怪我はございませんか?」
「うむ。お前のおかげだ」
主である貴族は全く無事のようだが、護衛やお付きの者は怪我をしている。
それにしても貴族相手なのはめんどくさい。このまま放置して帰るわけにはいかないだろう。
「………ご自宅までの護衛は必要でしょうか?」
「供の者に人を呼ばせてはおるが……。お主、腕が立つのだな。」
「それ程ではございませんが」
「私に仕える気はないか?」
やっぱりというか何と言うか。
「申し訳ございませんが……」
「そうか。無理にとは言わないが……」
本気で残念そうにしている男性に多少心が痛むが、すでに自分は仕え人なのだし。
道の向こう側が騒がしくなってきた。
呼びに行った者が人を連れて来たのだろう。
「人が来たようですし、もう大丈夫そうですので、私はここで失礼いたします」
「そうか。もし、気が変わったら私の東三条の屋敷を尋ねて来るがいい」
礼をもって返し、背を向けて歩き出す。
何はともあれ、人助けをしたのだからいいとしよう。
「ん? あの人、東三条の屋敷って言っていたけど」
東三条の屋敷といったら東三条殿のことだろうか。
だとしたら、あの人は。
「藤原道長とか?」
天上人も天上人ではないか。
凄い人と会ったという事でいいとしよう。
そう言い聞かせて、自分の屋敷へと戻っていった。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
無料HPエムペ!