VIOLENCE LOVE
『俺、死ぬべ』
平和島に手を引かれ、私は歩き出した。
時々、平和島が振り返っては手をギュッと強く握りしめ、首を傾げている。
「…普通なら折れるはずなんだけどなぁ…」
「………あまり物騒な事言わないで下さいね。平和島さん」
「そうだな……あ、あー。それと…なんだ、その、“平和島さん”ってゆーのはやめねえか?」
平和島が頭をかきながら苦々しく言った。
「なんで?」
私がそう問うと、恥ずかしそうに笑う。
「下の名前で呼ばれる方が慣れてんだよ」
…なんだ、意外と人間らしいじゃん
失礼なことだと思いながらも微笑んでしまった。
「そうですか…んじゃ静雄さんにします」
「それはありがたいな」
そう言って前を向いて私の手を引く。
通り過ぎて行く人々が振り返って私たちを凝視するけど、静雄や私がチラッと見るだけでそそくさと退散する。
まったくもってこの男は何者なんだろうか。
思いながら静雄を見るが、静雄は目的地しか見えていないのか…歩みを止めない。
15分程歩いただろうか…静雄がピタリと急停止した。
いきなり止まったため、よろめいて静雄の肩に体がコテンとぶつかる。
「………居た」
ぶつかったことを気にしていないかのように、静雄は数メートル先のドレッドヘアの男に手を振る。
「トムさん!」
「……ん?お、静雄。どうした?」
トムと呼ばれた男は電気店の前に並んでいたテレビから目を話すと、静雄に合図してから、未だに静雄に手をひかれている私に目を移した。
「トムさん、ウチってまだ人手いりますよね?」
「…まぁ、いらなくもないが……まさか、そんな女の子をウチで働かすつもりか?」
トムさんは訝しげな表情で私と静雄を交互に見る。
それから何か思い出したように表情を変えた。
「あ!この子、この前静雄と喧嘩してた子か!」
「そうっす。ほらこの通り」
そう言って静雄は思いっきり私の手を握りしめ上に持ち上げてみる。
「きゃっ!?」
…何をっ!?
宙に浮いた足をばたつかせて静雄に殴りかかる。
殴りかかった拳は静雄のもう片方の掌に包み込まれ、勢いを無くす。
その状況を信じられないというような面もちでトムは見つめていた。
「本当に静雄と喧嘩したんだな…これで腕が折れないとは…」
トムさんまで…物騒な…!
「こいつ、この前の喧嘩のせいでバイト先が見つからないらしいんすよ」
静雄が私を下ろしながら、言う。
「だから、お願いできないっすかね?」
「………」
トムは黙って考えるだけだった。
……もしかして…これを逃したら仕事できないんじゃ……
そう急いた私はトムにすがりついた。
「ト、トムさん!お願いします!もうあとがないんです!」
トムさんは困ったように笑うと、ポケットからケータイを出した。
「…まあ、俺だけの判断では採用はできないし…上に連絡してみるわ……たぶん上の人に連絡してOKって言うなら、いいことはいいんだが…」
トムさんは静雄をチラッと見て、私に目を戻す。
それから盛大にため息をついた。
「2人がいっぺんにキレて喧嘩したら………俺、絶対に死ぬべ?……」
ため息と共に吐き出された思いは2人には届かなかった。
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