おもいびと
◇WAY OF LIFE8
「陸?」
先輩はおれの手を引っ張って強引におれを家に持ち帰った。
週末の夜だから、きっと先輩はそのつもりでいたに違いない。
部屋に入って、ベッドに誘われる。
抱き寄せられそうになって腕を突っ張って抵抗すると、先輩は驚いておれの顔を覗き込んだ。
嫌な感情が込み上げてきて先輩から顔を背けてしまったけど、先輩の手はおれの顔を掴んで引き寄せた。
「やだ……先輩。さわらないで」
「陸。どうした?」
おれの顔を見て、心配しながら理解できないって表情。
なのに、不意に何かに気付いたようで。先輩はおれのシャツのボタンを強引に外しだした。
「だめ!……や」
先輩の手を掴んで止めようとしてもかなわなくて。
ベッドの上で揉みあっているうちに服がはだけて、そこにあった痕を見た先輩は驚いておれを問い詰めた。
「なんだ、陸……これ」
「やだ、やめて!」
おれが抵抗しても、先輩はおれに触れることを止めない。
そのうちにおれのシャツはすっかり剥がされて、上半身裸にさせられた。
ベッドに押し付けたおれの身体を見降ろして息を呑む。
驚きすぎた先輩は誤解したようで。「レイプされたのか?」と、一言だけ呟くように言葉を落としてから、口を噤んでしまった。
おれの態度が、レイプじゃないと伝えたから。
おれの身体にはまだ生々しい跡がたくさんあって。それは凄惨な傷痕みたいに見えた。レイプされたって思うのは当然だ。
先輩は混乱している。
これが合意の上でのことだって知ったから。
おれたちの間の何かが、この瞬間に壊れてしまったのが分かった。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!