おもいびと
◇WAY OF LIFE7
週末の夕方、先輩が家にやって来た。
卒業式の後からずっと学校を休んでいたから心配した……って。
玄関先で先輩を迎えた母さんは、丁度よかったとか言いながら、二階のおれの部屋にやって来た。
布団にもぐりこんでいたおれを「引きこもってないで出かけてきなさい」って、ベッドから引きずり落として叩き出した母さんは、おれの塞ぎ込んだ心を知っていたんだろう。
海斗が居なくなってから、ずっとこんな調子で布団の中にいたから。
そんな気分じゃない。
誰にも会いたくない。
何もいらない。
欲しくない。
海斗と一緒に過ごした記憶を上書きされたくない。
そう思っていたのに。
母さんは赤ん坊を扱うような手際の良さでおれに服を着せて部屋の外に追い出した。
玄関まで襟首を掴まれて連行されるおれを見て、先輩はクスクス笑いながら心配するような視線で見つめてくる。
細身の黒いダウンのブルゾン。黒い細めのジーンズ。
裾から爪先までスラリと伸びた黒革のアンクルブーツ。
相変わらずカッコいい。
おれたちの関係なんて知りもしない母さんは、好みの男前ぶりに気をよくして先輩におれを託した。
力ずくで家から叩き出されて。
先輩を前にしているおれは、まとまらない思考で頭ん中がぐるぐるしてる。
本当にどうしていいか分からない。
どうしてこんなに気まずいんだろう。
先輩との関係は、そんなんじゃないって自分で言ってたくせに。
ファミレスで食事を挟んで向かい合っても、食欲なんてないし。
きっと誰が見ても今のおれの様子は変だと気付くと思う。
特に、先輩にはすぐに自分の気持ちを知られてしまう。
誘惑されて、欲情して。
女みたいに抱かれて。
会うたびにあんなにドキドキしていたのに。
なのに。
おれはもう。
そんな気分にはなれなかった。
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