おもいびと ◆原罪10 受験勉強は、随分と偏差値の高そうな取り組み方をしている。 実力以上の目標設定は、自分も経験者だから辛さはよく分かる。 陸は、どこを目指しているのかと訊ねても、決して教えてはくれなかった。 受験校を口に出したくないのは。 明らかに偏差値が低いか、反対に分不相応に高い場合。 陸は後者の方だ。 自己学習に付き合わされると、それがよく分かる。 陸の学力レベルは数段高くなっていた。 受験生がいる家庭にしては、比較的穏やかな日常が繰り返されて。 おれが予備校から帰ると、だいたい陸と一緒になった。 帰宅時間が遅くて一緒だとすると。 それからの家での時間も一緒に過ごすことになる。 食事や入浴を共にしたとしても、それは家族として当たり前の事で。 実際がどうあれ、おれたちは仲のいい兄弟というレッテルの下で。隠し通さなくてはならない関係を続けていた。 ナーバスだった陸の安定は、家族には喜ばしい事で。 「──海斗のおかげね……ありがとう。やっぱりお兄ちゃんね」 母にそんな風に感謝されて、おれは複雑な心境だった。 「アイツ、どこ受験するの?」 「あら……知らなかったの?」 本人が言いたがらない以上、どうしようもない。 「あなたの後輩になりたいらしいわ」 そう言って、母はニヤリと胡散臭い笑顔をおれに向けた。 「高校卒業まで弟の面倒を見る事になるわね」 まるで、それが鬱陶しいでしょうと言わんばかりの表情で。 ああ、そう言う意味か……と、安心した。 「たった一年だ。大した面倒は見れないよ」 おれは、動揺を悟られないように居間を出て部屋に戻った。 [*前へ][次へ#] [戻る] |