おもいびと ◆渇望9 おれは、気付いた時には陸を抱きしめていた。 自分で出来ない理由を言えないまま。 おれに縋って、本当に辛そうに泣く陸が可哀想で。 「──海斗」 甘える声が、おれの理性を掻き乱して。 おれは力一杯抱きしめて、おれの理性を繋ぎ止めようと足掻く。 「海…斗……」 おれの腕の中で、更におれを求める陸。 背中に陸の両腕が回って、おれを抱き返して。 その潤んだ声がおれを狂わせる。 「──海斗がいないから……」 おれの聴覚が溶けそうな可愛い声。 誘われて、おれはどうしていいか分からない。 「海斗」 陸が、おれの顔を見上げた。 縋る視線が中二のそれじゃない。 艶を含んで、おれを兄だなんて見ちゃいない。 何だってこんな事になったんだ? だけど。 やっぱり、おれの責任でもあるのか。 混乱がおれの全身を駆け巡って。 おれの理性は別方向に走り出した。 [*前へ][次へ#] [戻る] |