おもいびと ◇時つ風3 クリスマスを家で過ごさなかった初めての夜。 軽音部の友達に誘われて、初めて夜のライブハウスのステージで演奏した。 軽音部には、派手なプレイヤーが多くて、そのセンスが刺激的でたまらない。 先輩はみんな優しくて、同学年の連中も半端なくハジけていて楽しい。 中でもカリスマ的なV系バンドがあって、ユニットを組んでまだ二年目だっていうのに、曲もプレイも完成度が半端なく高い。 そのバンドのヴォーカルを担当している先輩はメチャクチャカッコ良くて。 海斗に似ていて。 おれは、彼を見つめる事で、辛い現実から少しだけ逃避していた。 けれど、先輩と初めて言葉を交わして気付いた。 似ていると思ったのは顔かたちだけで、表情が違うとやっぱり別人だと思い知らされる。 抑揚のない話し方と、おれに視点を合わせていてもおれを見ていない視線。 そんな事を知って、余計に海斗に逢いたくなってしまったおれは弱い。 心がすぐに折れてしまって、やりきれない。 海斗が側にいないだけで、どうしてこんなに悲しくなるんだろうと思った。 海斗がおれの全てだから。 海斗だけがおれを見てくれていたから。 そんな寂しさを紛らすように、おれは更に音楽に没頭していった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |