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短編
三年目
 僕は9歳の時、婚約した。
 相手は・・・60を超えた老女。幼いという理由で婚姻は先延ばしにされたが、僕は悲しくて悲しくて・・・泣いた。
『ビービー泣いてるな』
 彼は、そう言って僕の頭を撫でた。
 一年ぶりに見る彼は、もっと恰好良くなっていた。
「ねえ・・・、空也はいくつ?」
『俺は、17だ』
「僕ねえ・・・婚約したんだ。相手は・・・遠い国の現王の姉・・・。政略結婚だよ。ねえ・・・分かっていたんだ、そのうちこうなるって・・・。それに、結婚だって、実際はあっちが高齢だけに死んだりもあるし」
『そんだけ年上との婚約で、おまえの年で泣いたからと言って、誰も攻めねえよ』
 僕は空也の手を頭に感じながら、咽び泣いた。その日初めて、空也は僕と同衾してくれた。今まではカウチで寝ていたのに・・・。
 とても・・・良い匂いがした。

 次の日僕は、空也と組み手をした。 
 去年の事件で、僕にも護身術を習わすべきとの意見が出て、剣術や体術を教え込まれた。それに伴い、搭にも警護の者が常駐する事になって、まあ、居るのは1階部分なので話したりは平気だけれど、組み手は気づかれないように寝技になった。
「無理無理無理・・・」
 僕はあっさり降参した。
『俺はおまえより幼いうちから護身術を叩きこまれている。これで負けたら笑いものだ』
 空也は、豪快に笑った。綺麗な白い歯に、僕は見とれた。
「空也は、なんで護身術を?」
『俺は、良いとこのボンボンでね。誘拐、その他、対策だ』
「へえ・・・。その・・・空也の家族は?」
『弟が、一人』
「弟さん・・・。え・・・と、ご両親は」
『いない。死んだ』
「へ?」
『弟は、俺の母が再婚してできた。母は、離婚した俺の親父と、俺の事で相談があってアポ取った日に事故に巻き込まれて死んだ。二人そろって事故死だ。今は、弟の父親に面倒かけている状況だ』
 淡々と、空也は言う。
『遺産があるし、生活には困らん。全寮制の高校に居るから衣食住もな。弟の父親に、事務系の事では迷惑をかける事もあるが・・・』
「空也も・・・一人?」
 僕は僕と違っていじけた様子もない、空也を見上げる。
『そうだ・・・。実は事故の時、俺も居た。俺は死に掛けた時、不思議な老女に助けられた。ケイテイと名乗る老女は、助けた代わりに報酬を寄こせと言った。こうやって異世界に召喚されることが、報酬だ。あの老女は、何者だったんだ?本当にただの使用人か?』
 ケイテイは姫巫女の侍女、そう聞いている。
『まあ、分からねえか。子供だしな。』
 空也はそう言って、汗に塗れた服を脱いだ。綺麗に付いた筋肉・・・そして、背中にある傷。
 羽のような・・・傷。
 僕は息を飲んだ。
「かみ・・・こ・・・」
 空也には聞こえないであろう、小さな呟き。僕は蒼ざめながら、口を閉ざす。
 空也が神子など・・・あってはならない。
 だって、そうなら、空也は隣国の王のものだ・・・。
 この世界で一番巨大な、姫巫女の故国。
 僕を、憎んでいる人々のいる国。
 僕の伯父が王位に君臨する強国。
 トウリール国の至宝。


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あきゅろす。
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