短編 二年目 僕は8歳の誕生日に、賊に襲われた。 「禁忌の子供よ」 そう言って、寝台の上で暴れる事も出来ない僕を、賊は殺そうとした。 が、敵わなかった。 『ふざけんな、くそが』 彼が、賊の頭を思いっきり殴っていた。 「静上院・・・」 僕は、彼の名を呼んだ。夢かと思った人が居た・・・。 『ああん、良く覚えていたな、俺の名』 「だって、命の恩人だし・・・」 僕はあのまま死んでいたかもしれない。そして今日も・・・。 彼は、気を失った賊を縛り上げて、次の間に放り出した。 『とりあえず、こういう事は良くあるのか?』 僕は首を横に振った。 「僕は自然死や病死は良いけれど、暗殺されちゃいけないんだ。母の故国とこの国が戦争にならないように」 僕の言葉に彼は耳を傾けた。 僕はこの国の王が戯れに、閨に引き込んだ女の子だ。ただ、その女が、隣国の巫女姫だっただけ・・・。巫女姫は、神殿に使える聖女で、僕を生んですぐ死んだ。隣国の王族も、民も怒り悲しんだ。けれど、その怒りを受けるべき僕は、巫女姫に守られた。巫女姫の、最後の言葉・・・。 【我を汚したことも許そう。その代わり、我が子に仇なす事は許さぬ。我が子が、病以外で死すならば、我は悪鬼となって両国に災いをもたらそうぞ】 そう・・・僕に許された死は、病死のみ。巫女姫の呪いを、両王国は恐れている。 『じゃあ、あいつは』 「国などどうでも良い、巫女姫の狂信者、かな?」 僕のせいで、巫女姫が死んだと嘆く、国に呪いが掛ろうが構わない者。 『ふん、じゃあ、そうそうこういった事はないんだな?』 「僕が居なくなるのを望む者は多いけれど、それは、あくまで、病死だよ。あいつは・・・王族殺し未遂で死罪だよ」 『なら・・・良いか。ところで、俺は今から3日間帰れない。此処に居させてもらうぞ』 思わぬ彼からの言葉に、僕は驚いた。 「側に居てくれるの・・・?」 『俺は、言葉も分からない筈だ。此処以外行けない』 彼は不機嫌そうだったけれど、僕は大喜びだ。 「僕は、ルーシェエルタ。ルーシェって呼んで」 『知ってる』 彼は、溜め息をついた。 賊は食事を運びに来た者に引き取らせて、彼と僕は3日間色々話して過ごした。僕は、彼が興味を引かれた本の内容を話してあげたくて、会えないかもしれないのに、かなりの蔵書を読んでいた。彼は、僕の知識に驚いてくれて、それが、とても嬉しかった。 彼は、他の世界の人間で、昔、命を助けてもらう代わりに、ケイテイと契約をしたと言った。 年に3日間、10年間、ケイテイの為に使うと・・・。ケイテイ死した後に、異世界に呼び出されるなんて考えもしなかったと、彼は笑い・・・消えた。 僕は・・・彼の名が静上院空也(せいじょういんくうや)だと、知った・・・。 [*前へ][次へ#] [戻る] |