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短編
一年目
 僕は、7歳の誕生日に死ぬ筈だった。
 僕の生まれは、禁忌だと言われた。王宮の離れの塔が僕の住処。機械的に運ばれる食事、用意される湯殿、着物。無表情な使用人達。
 半年前まではそんな僕にも味方が居た。母に仕えていた女中が死後そのまま僕の使用人になっってくれて、育ててくれた。魔法使いにはなれないけれど、常人より魔法力の高い老女は、ケイテイといった。彼女は、老衰であっさりこの世を去ってしまったが、死ぬ時に僕に贈り物をくれた。
「貴方様を、導く方が現れますように」
 そう言って渡された指輪は、不思議な事に僕の成長と共に大きくなったりした。たぶん、残される僕の為にケイテイが魔法を込めてくれたのだろう。
 そんな指輪を持ちながら、僕は熱に浮かされていた。誰も看病はしてくれず、機械的に次の間に置かれる食事さえ取りに行く力はなく、排泄さえ垂れ流しの僕は・・・いっそ早く楽になりたいと虚空を見つめていた。僕が食事をしていないのが分かりながらも、誰も様子を見にさえ来ない。
 ああ・・・僕のせいじゃないのに。
 早く楽になりたい・・・。
『勘弁してくれよ』
 聞いたこともない声に、僕は熱に浮かされた意識を覚醒させた。
「神様・・・?」
 見た事もないような綺麗な男の人が居た。黒髪黒い瞳は、この国では珍しい。背が高く、低めの声もうっとりする様に艶めかしい。僕の兄である王様より、ずっと綺麗な人。
『あん?俺は、神様じゃねえ。ケイテイのやつから、頼まれた。てめえの看護をしろだとよ。期間は3日、根性入れて治せよ、チビ』
 男の人は仏頂面で僕を抱き上げると、湯殿に向かった。
『軽く流すぞ。熱あるが、こんなに汚れてちゃ、どうしようもない』
 彼は汚物まみれの僕の身体を洗い、手早く温かい毛布でくるむと、生ぬるくなったジュースを口元に持って来てくれた。けれど、僕には飲み込む力がない。
『仕方ねえ』
 彼は、ジュースを口に含むと僕に・・・口移しした。
『おまえ・・・口くせえ』
 嫌そうになりながら、彼は何度も僕にジュースを飲ませ、僕はやがて眠ってしまった。
 次に起きた時も彼は居て、汚れたベットは整えられ、温かい雑炊のような物を与えられた。次の間にある簡易台所で、差し入れられた食事を全部ごった煮にしたらしい。
『炭で火を起こすなんて初めてだ』
 ぶつぶつ言いながら、彼は僕の面倒を見てくれた。
「名前は・・・?」
『静上院(せいじょういん)』
 喉が痛くても我慢して問えば、それでもようやっと彼の名は知れた。
『本がこんなにあるのに、読めやしねえ。読めればこの世界の事も分かるだろうに』
 残念そうに彼は言う。
 僕の居る塔は、王宮にある蔵書の予備の保管庫だった。王宮の書庫にある書籍が紛失した時用の予備書庫に、僕の生活スペースを無理矢理追加したのだ。一階から廊下、僕の部屋の壁まで覆う大量の書物は、彼の関心を引いたらしい。それまで、いやいや必要な物を読んで済ませていた僕は、彼の様子に羞恥を覚えた。彼は、この部屋の本に魅力を感じていたから。
 彼は、3日間付きっきりで、僕の面倒を見てくれて、消えた。
 目の前でいきなり消えたのだ。
 僕は驚いて、慌てて彼を探した。
 彼は見つからず、僕は泣いて・・・彼が話していた言葉が聞いたこともないものだったのに、意思の疎通ができた不思議に、この時やっと気が付いた。
 

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