榊の宣言通り、用事が済んだのかすぐに戻って来た。
「さて、どこか行きたいお店でもありますか?」
「え……と、服。榊さん達に用意してもらった服、ほとんどスカートやワンピースばかりで、動き易いパンツ系があまりないので、それが欲しいかな……と」
苦笑いの真雪は申し訳なさそうに話し、窺うように榊を盗み見た。
「ワンピースやスカートは嫌いですか?」
そこには不思議そうな顔の榊が首を傾げながら真雪の顔を覗き込んだ。
「嫌いなんかじゃありません。ただ……家事をするのに動き易い方が良いかなと思って。それに家事をしてて汚したらって考えると、思い切った事が出来ないと言うか……」
「わかりました。では、真雪の望む物を探しに行きますか」
少し慌てたような返事をする真雪に、榊は思わず微笑んだ。
停車していた駐車場から、静かに車は動き出した。
程なくして着いた先は、アパレル系のテナントがたくさんある商業ビル。
若い人向けの店が連なるフロアに足を踏み入れた二人は、ウィンドウショッピングを楽しみながら目的の店へと入って行った。
行き交う若い女は、榊を見ては振り返り赤い顔をしながら小声で囁いている。
それに気付いたのか、真雪に苦笑いを零し小さく話し始めた。
「やっぱり私は場違いのようですね」
「どうしてですか?」
「お客が私を見て何か言ってますから、何だか恥ずかしいですねぇ」
少し照れた様子の榊に、真雪は吹き出してしまった。
「何がおかしいんですか?」
困った顔をする榊に真雪は笑いが止まらなくなり、涙まで滲んできた。
「榊さんを見ていたのは、あんまり素敵だから皆さん見てたんじゃないんですか?」
「そうなんですかねえ。ジロジロと見られるの、好きじゃないんですよね」
そう言って、榊は頭を小さく掻いた。
いつも冷静さを失わない榊が少し恥ずかしげにする様子が珍しく、意外な一面を垣間見た真雪は終止笑顔でいた。
しかし困った様子の榊に悪いと思った真雪は手早く目的の服を探し出していると、榊は店員に何かを指差しながら話をしている。
「榊さん、決まりました。ちょっと試着してきますから、待っててもらえますか?」
「ああ、真雪。ちょっと待ってください。この中で気に入らない服はありますか?」
「はい?」
榊の指差す方向には、店員が腕に抱え切れないほどの大量の服。
「さ、榊さん!これは何ですか!?」
「夏物少ししか用意してなかったと思ったので……。足りませんか?」
「足りないなんて物じゃありませんよ!こんなにたくさん」
「気に入らない服はありますか?」
「みんな素敵です!」
「そうですか、……じゃあ彼女が持っている服とこれ全部。この届け先に、後で配達してください」
榊は流れるような動きで胸ポケットから名刺を取り出し、店員に手渡した。
榊の豪快な買い物に真雪は立ち尽くし、笑顔の店員に持っていた服を掠められた。
目の前にあった大量の服が次々とレジを通る。
パンツを一本買うだけのつもりで来た真雪は、こんな大袈裟な場面に出くわすとは思ってはおらず。
ただただ目を見開いて、その様子を眺めていた。