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愛しき殺し屋
小さな密室1



真雪がリビングから自室に戻る途中、車の鍵を片手に封筒を持った榊が前方から颯爽と歩いて来る。


「お出かけですか?」

「はい、ちょっと人と会う約束がありまして。私の用事はすぐに終りますから、真雪さえ良ければ一緒にショッピングでもしませんか?」


真雪に声をかけられた榊は足を止め、見上げる真雪に微笑んだ。


「良いんですか?」

「喜んで」

「はい!じゃあ支度してきます」


車で待っていますと言う榊の言葉を聞き、真雪は喜び勇んで自室へと小走りで入って行った。


着替えを済ませ小さなバッグを持ち、足取りを軽くして榊の待つ車へと向かった。


シルバーのベントレー・コンチネンタルGTに乗り込んでいた榊は英国情緒溢れる車に見劣りせず、互いをより一層引き立てていた。

ドアを開ければ車内は広々としており、天然木のウッドパネルや本皮のシートが高級感を漂わせる。

リラックスしたような姿勢でハンドルを握る榊が「行きますよ」と声をかけると、真雪は急いで車に乗り込んだ。


「私の用事はすぐに済みますから、車で待っていてくださいね」

「はい」


車を走らせながら榊は真雪の返事に満足そうに頷き、ビルの地下駐車場へと入って行った。


真雪のヘッドレストに手を回し、バックで車を駐車させる榊の横顔は薄暗い車内でもハッキリとわかるほど。

眼鏡の奥の瞳は涼しげで、一筋の乱れのない黒髪は、大人らしさと艶やかさを演出する。

真剣な表情に真雪は見惚れ、息をするのも忘れてしまい、つい目で追ってしまう。

視線を感じたのか、榊は苦笑いで真雪に目を向けた。


「どうしたんですか、私の顔に何かついています?」


車を停め、エンジンを切ると途端に静かになる車内。

その静寂が真雪の心を、かえって落ち着かなくさせてしまう。

密閉された小さな空間に、鼓動が響いてしまいそうなくらい真雪は動揺した。


「あの、えっと……」

「すぐに戻ります」


言葉を濁す真雪を前に、置いてあるA4の茶封筒を持って車を降りた。

落ち着かない真雪は、榊のいなくなった車内で大きく深呼吸をした。


「……はぁ〜、何だか緊張する。どうしたのかな……」


高鳴る胸と、自分でわかるほどの顔の火照り。

榊が戻る前に、何とか平静を取り戻そうと何度も深呼吸を繰り返した。


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