凛と身体を交えて、一ヵ月が経った頃。
真雪は凛に対して今まで通り接する事が、いまだ出来ないでいた。
凛の態度があまりにも普通だったと言う事が唯一の救いだったのだが、凛の顔を見れば顔を赤くさせるという日々。
時折思い出す、普段からは考えられない凛の熱のこもった表情を、真雪は幾度となく頭の中に甦らせてしまっていたから。
凛の小さな仕草一つ一つを、いつの間にか真雪の視線は追っている。
少なからずとも、凛に惹かれる自分がいる事を真雪は薄く感じていた。
「はぁ、どうしたのかな。やっぱり凛さんの事……」
凛の事を想えば胸が熱くなるのがわかり、早鐘を打つ胸に手を置いた。
熱に浮かされたようになる真雪は、自分の頭の中に現れる凛をかぶりを振って追い出し、今日は早めに寝てしまおうと考えた。
着替えを用意しシャワールームに行くと、服を脱ぎ鏡に映る自分の姿を見た。
この身体が凛に愛された、そう思うと真雪の身体の中心が疼いてゆく。
火照る顔にまかない真雪はシャワーを早々に終えて、水を飲もうとキッチンに向かった。
昼間の強い陽射しがなくなった廊下を進み、階段を下りて薄暗いエントランスに出る。
まだ二十一時だと言うのに、今日に限って屋敷の中はやけに静かで人の気配が感じられない。
足の進める先、リビングから一筋の光が漏れ、誰かがいるのがわかった。
真雪は誰がいるのかと思いながら、何気なくドアを開いた。
空調が効いたリビングに入ると、ひんやりとした空気が真雪を包み込む。
リビングの奥にあるキッチンには、凛が驚いた表情で真雪を見ていた。
「……凛さん」
「真雪、もう少し警戒した方が良い」
唐突にかけられた台詞に、真雪は首を傾けた。
意味を知らない様子の真雪に、凛は小さく息を吐く。
「湯上りで濡れた髪、肩を丸出しにしたワンピースでは、ここの住人は目のやり場に困るぞ」
「あ……えと、……はい、ごめんなさい」
特に気に留めていなかった事を凛に指摘され、真雪は申し訳なさそうに俯き踵を返した。
「ちょっと待て、何か用事があったんだろう?……今直せとは言わないが、これから気をつければいい」
「はい……これからは気をつけます。ちょっと喉が渇いて、冷たい物を飲みたくて」
真雪が俯きながらそう答えると、凛は冷蔵庫からミネラルウォーターを出しグラスに注いだ。
立ちすくんだように、その場から動かない真雪の前に進みグラスを差し出す。
「ほら」
「ありがとう……ございます」