「あははははっ!……兄?あんなのは目障りとしか、言いようがない!邪魔でしかないのに、兄なんて思った事一度もない。そんな奴殺しても、何とも思うわけないだろう!」 痛みや押し迫った空気に、忠は堰を切ったように言葉を並べ立てた。 涙や涎で汚れた顔を引きつらせ笑い声を上げていると、凛の背後に人の気配を感じ咄嗟に銃口を向けた。 「真……雪」 そこにはドアに縋り立つ真雪が小刻みに震え、青褪めた顔をしていた。 「叔父、さん」 「真雪!あぁ、良い所に来た!助けてくれ!こいつに殺されるっ!警察、警察を!」 血に染まった手を忠は真雪に伸ばした。 真雪は表情を変えず、不安定な歩き方で忠に近付く。 凛は真雪に向けた銃口を下ろし、忠に警戒しながらもその動向を見守った。 「叔父さん……」 「早くっ、警察を!」 忠が真雪を掴もうと、唯一無傷の右手を震えながら伸ばした。 しかしそんな忠の手を真雪は身体を揺らめかしながら避け、頼りなく下ろしていた手を胸の前で合わせ拳を握る。 それまで焦点の合わない目をしていた真雪の、忠を見る目つきが豹変した。 疑い、憎しみ、怒りの込められた強い眼差しに。 「今言っていた事は……、本当、ですか?」 「何の事だ!?いいから、早く!痛い、血がこんなに……!助けてくれっ」 涙も流さず忠を睨みつける真雪を、横で見ていた凛が重い口を開く。 「真雪、ここから早く出るんだ」 「真雪いぃ……目の前が霞む、痛いー……痛い……。早く、救急車……を」 凛の言葉が聞こえないのか、真雪は動こうとしない。 血の海に転がる忠を、真雪は冷めた目で見下ろす。 「パパは叔父さんの事凄く気にかけていたのに、それなのに……なんて身勝手なの」 凛は絞り出すような声を上げる真雪の腕を引き、強引に部屋から出そうとする。 しかしその手をやんわりと振り払い、真雪は言葉を続けた。 「あなたなんか……死ねば良いのよ」 「俺に向かって死ねとは何事だ!……そうか、お前がこいつらに頼んだのか。クソッ……許さんぞ、許さんぞ真雪ー!」 「私だって……許さない。パパとママを殺した叔父さんなんて、絶対許さない!」 涙を浮かべ怒りに震える真雪の肩を凛は抱き寄せ、僅かにため息を漏らした。 「真雪、お前に仕事を見せたくない。だからここから出るんだ」 凛は真雪の顔を見ようとするが、真雪は真っ直ぐ忠を見ていて視線が交わる事はない。 「……嫌です。この人の最期は私が見届けます。凛さん、私に構わないでください」 「駄目だ」 「私は、ここを動きません」 凛を一瞥もせず、痛みに苦しむ忠から視線を外さない真雪に凛は決意する。 抱いた真雪の肩に力を入れ顔を己の胸元に沈めさせ、忠に背を向けさせた。 「終わりだ」 真雪は凛が咄嗟に取った行動に気を取られていると、凛の言葉に続いて忠の叫び声が聞こえた。 凛の放った銃弾は忠の頭を撃ち抜き、倒れ伏すその身体はもう動くこともなく、何も喋らない。 |