くだらない、何が祝勝会だ。
馬鹿馬鹿しい。
親に無理矢理連れてこられたこんなパーティー、高い酒でも飲んでないと身が持たない。
中年の男女の下品な笑い声が嫌でも俺の耳に入り、それを払拭するようにグラスを空けた。
部屋の隅で一人ボトルを傾けていると、ぶくぶくに太った気持ちの悪い柳川が俺に近付いて来た。
「尊くんの計画が上手くいって良かったよ。君は頭脳明晰で、将来有望だな。これならご両親も鼻高々だよ」
癇に障る高笑いをしながら、不躾に俺の背中を叩く。
「ははっ、どうも」
愛想笑くらいは俺でも出来る。
処世術ならお手の物だ。
嫌いなモノに対し、嫌悪感を丸出しにするのはガキのする事。
そんな事をした所で敵を増やすだけ。
……そう言えば、真雪と再会した時に会ったあの茶髪の男。感情を剥き出しにしてたっけな。
俺のやる事成す事に一々反応して、ある意味新鮮だった。
あの黒髪の男もやけに冷静ぶってたけど、目はそうじゃなかった。
今にも俺を殺したいってくらいの殺意を灯していた。
まったく、真雪も妙な男を手懐けたものだ。
柳川の存在を掻き消すように、俺はあの時の事を思い出しグラスに口をつけた。
「俺達の子供なんだから当たり前だよ、柳川さん。やっと使い物になってくれたかなって所で、まだまだこれからですよ」
当たり前……ね。
一瞬だけ俺を見てすぐに目線をそらし、緩んだ表情で俺の父親は柳川と勝手な事を言っている。
「うちの組にスカウトしたいぐらいだ」
卑下た笑いを浮かべる武島はウィスキーの入った琥珀色のグラスを回し、品定めするような目付きで俺を眺める。
冗談じゃない、たかが三流の組が俺を使おうなんて甚だしい。
喉まででかかった言葉を酒で押し込め、変わりに熱くなった息を吐き出した。
「あら、武島さん。尊はウチの大事な手駒よ。ちょっかい出さないで下さいな」
シャンパングラスを傾け、ほんのり色付く頬の母親は高い声で笑う。
手駒……、こんなのが親だと思うと反吐が出る。
気持ち悪い女。
ま、俺もお前等の事を親だなんて思っちゃいないが。
「しかし尊からこの話聞いた時は正直驚いたが、こうもスンナリと会社を手中に収める事が出来るなら、もっと早くやれば良かったよ」
「そうよね、義兄さんも義姉さんもいつも見下したような目で見てて、気に入らないったらありゃしない」
それは被害妄想。
伯母になんて、お前の方が嫌味ばかり言ってたくせに。
「全くそうだ、少しの金も自由出来ないで副社長なんて意味がない。あんなのが兄貴だと思いたくも無い」
伯父はアンタが信用出来ないから、自由にさせなかっただけ。
それでも副社長なんて役職で居れたのは、伯父の優しさ。
俺なら会社に居させない。
鬱積していた思いがため息となって、思わず零れてしまう。
立っている事すら疲れてきた俺は窓辺に置かれた椅子に腰を下ろし、月明かりをぼんやりと眺めた。
この計画のどこが成功なんだ。
成功してるなら俺の隣りには真雪がいる。
この計画は失敗だ。
会社なんて二の次。
真雪だけが欲しかった。
あぁ……こんな愚かな奴等と一緒に居たくない。
真雪に逢いたい。
逢って俺に微笑んでもらいたい。
可愛い真雪。
……俺の真雪。
必ず迎えに行くから。
ただ、お前に逢いたい。