「今日のために、特別にとって置いたワインがあるんですよ」 柳川はにこやかに部屋にいた人物達に声をかける。 「柳川さん、俺はウィスキーしか飲まねぇから」 武島は柳川にそう告げると、グラスに入ったストレートのウィスキーを一飲みする。 「武島さんはそうでしたね。では、御堂さんご夫妻はどうですかな?」 「私達もいける口です、尊もいけますよ」 「じゃあ今持ってこさせますよ」 部屋にある内線でメイドを呼ぶも誰も出ない。 携帯で秘書に電話をするが電源が入っていないのか、こちらも応答が無かった。 「なんだ!こんなときに限って、使えない奴等めっ!クソッ」 「どうかしたんですか?」 「どうもこうも誰も電話に出ないんですよ。ったく……仕方が無い、私が持ってきますからちょっと待っててください。地下のセラーに置いてあるはずなんだが」 ブツブツと文句を言いながら、柳川は部屋を出て地下に向かった。 途中パントリーや厨房を覗くが、誰も居らず火の気も全くなくなっていた。 ただキッチンワゴンには、今しがた用意されたばかりの温かそうな料理が置いてあった。 「……なぜ誰も居ない」 換気扇ばかりが大きな音をたてていて、静かな厨房を益々際立たせる。 柳川は一瞬にして酔いが醒めるような感覚に陥ったが、気を取り直しセラーのある地下室へ向かった。 厨房に隣接してある地下室に足を踏み入る。 ワインを美味しく保つため、一定の温度に設定されているセラーは空気が冷たく、アルコールで熱くなった柳川の頬を掠める。 「ここらにあると……おぉ、これだ」 目当てのワインを見つけ満足そうに笑い、その場を去ろうとした時。 それまで何も感じなかった、人の気配がした。 酔いどれの足取りでゆっくりと振り向くと、薄暗いセラーに一つの影。 「あぁ?誰だ貴様っ」 「俺か?豚には教えられねぇなぁ」 聞いた事のない男の声に、柳川は血の気が引いていった。 |