勢いよく開いたドアに視線が集まる。
「九条ー!」
「げっ、ライカ。ひ、久々〜」
苦笑いを浮かべ、力なくヒラヒラと手を振る慎哉は顔を青褪めさせている。
「真雪ちゃんを連れて行くって、どういった了見?ちゃんと説明してくれる?」
「ただの冗談だったのに、榊が本気にするから話が大きくなってしまってー……あはは」
大きな音を立てたせいか、凛や和泉も榊の部屋に集まった。
「何かあったのか?……九条お前来てたのか」
「おっ、九条じゃん。久しぶりだなー」
「九条は真雪ちゃんを、自分の家に連れて帰ろうとしてたんだって」
ライカの一言でその場の空気が凍りついたかと思うと、和泉の好戦的な目が光り、凛の表情は一瞬にして冷めていった。
「九条、良い度胸してんじゃん」
「だ、だから冗談だって……和泉〜」
「九条……寿命が縮まったな」
「凛までっ!おい、榊〜助けろよ。ちょっと子猫ちゃんからも何か言ってやって!」
和泉の手にはいつの間にかナイフが握られ、凛からは拳銃の安全装置を外す音が微かに聞こえた。
「ちょっ!待て!話せばわかる!長い付き合いだろ!?」
「長い付き合いだからこそ、全力で向かわないとこっちがやられてしまう」
狼狽する慎哉は真雪の影に隠れた、その後ろから言葉をそれぞれに返す。
「凛は正論を言っていますね」
「榊!そう言う突っ込みはいらないから、二人を止めろ!」
「凛さんも、和泉くんも落ち着いてください!慎哉くんは冗談を言ってただけですから。それに私は、ここから出て行くつもりはありません」
真雪からの鶴の一声で、静まりかえる部屋、そして。
「九条〜?僕達には“慎哉”って呼んだら気持ち悪いとか言って、“九条”って呼ばせてるくせに真雪ちゃんは“慎哉”てどうゆう事?」
「しかも“くん”とか……キモッ」
ライカは目が据わり、慎哉との間合いを縮め少しずつ歩み寄る。
嘔吐する真似を大げさにする和泉は、今にも吐きそうなほどで。
「それは真雪に“慎哉くん”て呼ばないと、家に連れて帰るって行ったから仕方なく言わされてるんですよ。“くん”て呼ばれて十代に戻った気分だとか、喜んでましたよ」
ライカのこめかみがピクリと動き刺すような視線を慎哉に向け、榊は黒い笑顔でしれっと答えた。
「だから!榊、いらない突っ込みは」
四人の視線が真雪の影に隠れる慎哉に向けられる。