「和泉くんは強いですね、逆境を逆境と思わないところとか、憧れます」
「はぁ!?いきなりなんだよ」
憧れるなどと言われた事の無い和泉は真雪の言葉に面食らってしまい、声を荒げてしまう。
「逆境なんて思った事ねぇっつーの、別に強いとも思わねーし」
「だって私は……両親がいなくなって、親戚の家に引き取られて。死のうと思っちゃいましたし。――私が弱すぎるのかもしれませんけど」
真雪の乾いた笑いが小さく聞こえるが目は笑っておらず、痛々しさだけがハッキリ目に見て取れる。
真雪の叔父に引き取られてからの出来事を榊から聞いていた和泉は、何も言えないでいた。
血のつながりがある叔父達からの、愛情があるとは思えない態度や尊にされた事。
死にたいと思った頃は、両親の事故死としか聞いていなかったのは幸いだっただろう。
もし事の真相を知っていれば、真雪の心は完全に折れてしまっていたかもしれない。
ここに来て、少しずつ笑顔を取り戻してきている真雪に皆は喜んでいた。
「あのさ、真雪は頼りたくないかもしれねぇけど、皆の事もっと頼って良いんだぜ?弱くって何が悪い。真雪の弱さは、俺等がいくらでもカバーしてやれるだけの度量はあるんだからよ」
「……ありがとう。すごく嬉しい、です」
真雪の瞳に湛えられていた涙が、ハラリと零れる。
「私……皆さんに良くしてもらい過ぎてて、少し怖かったんです。信用してはいたんですけど。心のどこかで、どこか一歩引いてしまって……これ以上甘えちゃいけない、これ以上踏み入れちゃいけないって。いずれ離れなくちゃいけないのに、私にとっても家族みたいに思えてきて……。一人に慣れなくちゃいけないのはわかってるんですけど、一人が――……怖いんです。それに」
「真雪はやっぱり馬鹿だな、そんな事で不安になるなよ。お前を簡単に……後は榊に任せるか。今の事、榊にも言ってみろよ。きっと良い答え出してくれるぜ?」
「……良い答え?」
涙で濡れる顔を上げ、よくわからないと言った表情の真雪は和泉を見つめる。
和泉は真雪の隣に腰をかけ、拭おうとしない真雪の涙を袖で乱暴に拭い、頭に手を置いた。
「榊のトコに行って、ちょっと話してこい。きっと真雪が喜ぶこと言ってくれんじゃねーか?」
「喜ぶ、こと」
隣にいる和泉に目をやれば、いつもの高慢な笑顔で笑っている。
それがなぜか嬉しくて、真雪はだんだん涙が引っ込んでいった。
「和泉くんて、結構懐が広いんですね」
「だーかーらー、俺はお前の頭の中で、どういった変換がされているんだろうな〜?」
和泉は顔を引きつらせながら、また真雪の頬をギュッと抓るがすぐに放し、自分の頭をガシガシと掻き毟った。
「なんかさ、ここに来た頃のお前見てると俺に少し似てたんだよ。真雪は怒りや虚しさ、寂しさが自分に向けてて死のうとしてただろ?俺はそーゆーのが全部周りにいってたんだよな。おかげで毎日喧嘩ばっかで怪我だらけ。ガキだったから、どっかで親のいない寂しさとかがあったのかもなーって……その鬱憤晴らしだったのかも」
頬杖をついて大きくため息をつく和泉を横目に、その話を真雪は少し納得して聞いていた。
「でもそのおかげで、榊さんに出会えたんです。和泉くんも私も結果オーライって事ですね」
「そうだな」
二人は顔を見合わせ、小さく笑いあった。
事情は違えど、榊に拾われた者同士。
真雪は少しだけ、和泉を近くに感じることができた。