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空想庭園




「だから……止めてくだ……リリーさ……ん?」

さっきまであったナイスバディのリリーさん。
それが……。

「これならどうかしら?」

口調は何にも変わらないけど、女の人から中性的な姿へと変化していた。

あのナイスバディはどこ!?
髪型は何も変わってないけど、胸がペタンコにっていて、くびれたウエストがなくなっている。

「リリーさん……?」
「これなら同性じゃないから安心してくれる?」

いやいやそういう意味じゃなくて、異性ならもっと困る!
ああ、でも言葉は女の人の姿の時と同じだから、男性って言うよりオネエ?

「あの、私は一応既婚者で……、そのこのような事は、駄目……やっ」
「ここまでしてるのに、据え膳は食べないと〜。あなたの中の呪い、全部あたしに食べさせて?」

さっきまであった女性的な柔らかく弾力のある身体じゃない、細身でも筋張った固い筋肉に抱かれながら逃げようとする私を追いかけてくる。
執拗に寄せられる唇は徐々に深くなり、舌を絡めとられる。

時々離れる唇。
逃げられるとホッとすると、その時垣間見えたリリーさんは恍惚の表情で舌なめずりしていた。

「……なんて美味しいのかしら。食べても食べても、まだ残ってる」

美形なのに、オネエ言葉が勿体ないなんて考えていれるのは、私に余裕がある証拠なんだと思う。

「一度に食べるには惜しいわ。あなた、テイクアウトされない?」
「……へ?」
「どこでそんなに呪いを貯め込んだのかしらね。まぁ良いわ、じゃあ行くわよ」
「え、ちょ、どこに行くんですか!?」
「だからテイクアウトするって言ってるじゃない」
「私は持ち帰れるような物じゃないですし、……こ、これでも人妻なんです!」

連れて行こうとするリリーさんの足が止まる。

「じゃあ了解を得れば大丈夫ね」

ニッコリと笑うリリーさんは、目の前でナイスバディなリリーさんへと変化した。
もう何を見てもそんなに驚かない。きっとアニスに毒されてきてるんだろうな。

「あなたの旦那様に合わせて頂戴」

嫌ですなんて言えなくて。
その場しのぎだとしても、今ある最悪の状況からは逃れることが出来そう。
そう思ったら、私は素直にアニスのいるであろう会社へと案内した。

あのサフィニアさんの1件から、私達の仲は深まった。精神的な安定も感じられるし、守られているとも思えるし、実感もしている。
今日はアニスからランチデートをしようと言われていて、元々行くつもりでもあったから、こちらとしても好都合だ。

ただ……このリリーさんの意図がよくわからなくて、食べるとかテイクアウトとか。
呪いがどうのと言っていた割には、キ……キスなんてしてくるし。
女の人だと思ってたら男の人になるし。

悶々と考え事をしながら歩けば、もう会社は目の前だ。

「あそこの上階に居ます。……えと、社長室に」
「やだ、あなた社長夫人なのー!?」

見えないわーと失礼な事を口にするリリーさんに、若干苛立ちはしたけど。
でも……実際はそうかも。私だって自覚も何もないし。第一アニスが社長と言われてもピンとこない。

エントランスからホールに行けば、ツキちゃんの姿はなくて。きっと休憩中なんだろうなと思い、綺麗な受付のお姉さんに私が来た事をアニスに伝えてもらった。

物珍しそうに辺りを見回すリリーさんは、獲物を見るような目で舌なめずりをしている。

「奥様、社長室までおいでくださいとの事です」
「わかりました。ありがとうございます。あの……、もし浮島さんがお手すきなら、会いたいと伝えてもらって良いですか?」
「はい、承りました。浮島に申し伝えます奥様」

最近になって奥様と言われる事にどうにか慣れてきた。
ツキちゃんにアニスとの事、私の口から説明したい。いきなりの事だったから、きっと混乱してると思うし。

「リリーさん、こっちです」

声をかけてみたけど、既に私に対して興味なさそうにしているリリーさん。どうしよう……。ここでこっそりと抜け出して、一人でアニスの所まで行けば逃げれるかな?
私の企みを知ってか知らずか少しずつ距離を保とうとすると、リリーさんが腕を掴んできた。

「ねえ、この場所は何?凄いわ。呪いとも違う情念や瘴気で充満してる。あなた、一体何者なの?……そう言えば、あたしが変化した時もそれ程驚いた様子はなかったし」
「いや、別に……。とりあえず社長室に行きましょう」

わくわくした様子のリリーさんを連れ、私はエレベーターへと乗り込んだ。




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