空想庭園 3 「……香夜ちゃん」 「……そんな呆れた顔で、呆れた声を出さないでください。言いたい事はわかります」 社長室に入ると、ユベールさんにはしかめた顔をされ、アニスには前述の通りで。 そしてそんな雰囲気に似つかわしくない声を上げるのが。 「やっだぁ!ユベールじゃなぁい!お・ひ・さ」 リリーさんは黄色い声を出し、ユベールさんに引っ付いている。 ユベールさんは背が高いけど、それに見劣りしないリリーさんのスタイルの良さ。 身長差も余りなくて、だからなのか凄く恰好の良い二人だ。 「あの……リリーさんはユベールさんとお知り合いですか?」 「そおよー!あたしの大好きな人なの、うふふ!」 この部屋に……いや、このビルに入ってから妙にテンションが上がっている。 「香夜ちゃん、ちょっと」 アニスに呼ばれ、黄色い声を避けて側に行けば。 「……リリー、どこで拾ってきたの?ペットはロビンがいるから、もう何も飼えないよ?拾って来た所に戻してこないと駄目だよ?」」 「あの……」 普通に迷惑そうにするアニスに、突っ込みどころ満載で。何から返事をして良いのか、戸惑ってしまう。 「あのですね、リリーさんが言うには私は沢山の呪いを持っているらしいんです。しかも思い当たる呪いばかりを言い当てるんですよ。そしてその呪いを取ってくれると言われてですね、……あの……」 私がたどたどしく話ていると、アニスの表情が徐々に曇ってくる。 私の言い方が悪かったのか、何か気に入らない事を言ってしまったのか。 「香夜ちゃん、もしかしてリリーに何かされた?」 「えッ……」 ジッと見つめる金色の瞳。 何もかも見透かすような視線に、私はつい逸らしてしまった。 でもそれが悪かった。 「どうして目を逸らすの?香夜ちゃん、僕の目を見てごらん?ほら、どうしたの?」 静かに、そして確実に追い詰めようとするアニスに、私は後ずさりしていた。 でもすぐに背中に壁はやってくる。 助けを求めようとユベールさんを見れば、ユベールさんはユベールさんで大変そうだった。 追いはぎのようにリリーさんに服を脱がされかけていがて、本気で嫌がっていてあからさまな嫌悪の顔でいる。 「随分余裕があるねぇ。余所見している暇、あるのかな?」 私も随分ピンチです! 「ねぇ、リリーに何されたの?」 目の前の悪魔は私が正直に言えば許してくれるのだろうか? 「言います、から。あの、離れて……」 「だーめ」 背中には壁があって、アニスの顔が近づく。 「言う、……言います、から」 こんな他の人がいる所で、頬に唇を寄せてくる。 このままいったらキス……されちゃうんじゃ……。 そんな一抹の不安から咄嗟に。 「キス……、され」 「やっぱり……。リリー?」 言い切らない内に、アニスは私からリリーさんへと視線を移していた。振り返るように見ていたから、どんな顔をしていたかはわからないけど。 視線の先のリリーさんからは黄色い声がなくなってしまい、代わりに強張った表情になってユベールさんを盾にするように隠れていた。 「……ご、ごめんなさいいいい!まさか王子の育てていた呪いだなんて知らなくて。でも食べたのは、ほーんの少し、本当にすこーしで、まだまだ呪いは残ってるから大丈夫よ!こんなご馳走は見た事がなくて、本当にごめんなさい」 「少しだから良いとか、残っているから良いって問題じゃないんだよ、リリー。僕の物に手を出したって時点で、大問題なんだ」 「だから本当にごめんなさい!……じゃ、じゃあわかったわ!食べた呪い、少しでも返すからそれで許して!?ね、それなら良いでしょ!?」 ユベールさんの後ろに隠れていたのに、そこから勢いよく飛び出し、許しを請うように私達の下に来た。 そして私の顔を両手で挟みこんだと思うと、いきなり顔を近づけてきた。 「ひ、えええええっ!」 「だから……、僕の物に手を出す時点で大問題だと言ったでしょ」 唇が重なりそうになる前にアニスはリリーさんの頭を鷲掴み、その動きはどうにか止まった。 「お、王子……、あた、ま……、わ、……れ、……る……!」 絞り出すように声を掠れさせるリリーさんの勝気で綺麗だった顔が、どんどんと土気色になっている。 やばいと思った私は、リリーさんから離そうとアニスに抱き着くようにして飛びついた。 「リリーさん死んじゃう!アニス!」 飛びついてもビクともしない身体だけど、どうしたら止めてもらえるかわからなくて。 ただ力を込めて、必死に願った。 [*前へ][次へ#] [戻る] |