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運命について語る(Pop'n:ウォカジズ)
「天文学的確率なんだよ」
「はい?」
私は聞き返した。
「天文学的確率」
「…主語は?」
そう言ってやっと、ウォーカーがああ、という顔をした。
「僕らが出会う確率」
今度は私がああ、という番だった。
存外と(というべきか否かは分からないが)彼はロマンチストだ。
私の書斎の蔵書を漁っては、その中に広がる世界によく涙している。
彼ほど何事にも真っ直ぐに向き合えない私からして見ればそれは羨ましくもあり、疎ましくもあった。
「それはそうでしょうね」
「そうだよ!」
ウォーカーが人差し指を立てた。
「僕がたまたま地球によって、たまたま君と出会った。その確率はすごく僅かだったんだ」
星は他にいくらでもあるはずなのに、と彼は付け足す。
「それってもう運命じゃないかい?」
「いいえ」
私は笑って言った。
「そんな事を言ったら、この世界全部が運命で決まってるみたいじゃないですか」
「違うのかい?」
「え」
彼は運命論者なのか、と少し驚く。
「私は運命は信じない方なので」
正直な話、そんなものは好きでは無い。
元からすべてが決まっているなら、私達が生きていたって(まあ私はもう生きていないけれど)無駄な気がする。
「不幸な運命、とか幸せな運命、とか、決まってるのって馬鹿らしく無いですか?」
ウォーカーが首を捻った。
「でも、出会う運命だった、って素敵じゃない?」
まだ言うか、と少し閉口する。
「素敵じゃありません」
「どうして」
そんな事まで詮索されるいわれはない、と喉まで出かかったが、なんとか堪えた。
自分の行動が予め誰かに決められているなんて、冗談じゃない。
私は口を開く。
「貴方と出会って共に過ごす事を決めたのは、私自身の意思なんです。運命で決まっているからじゃない」
ウォーカーがほんの少し、笑った。
「そうかい」
「そうです。運命なんてものの所為にしないで下さい。私は貴方を、貴方は私を、自分の意思で選んだ。他にも人は大勢いるのに」
そちらの方が余程素敵じゃないか、と私は思う。
我ながらかなり恥ずかしい台詞だとは思うが、長い人生、そんな事を溢すのも有りだろう。
似合わない自分を演じるのもたまには良いものだ。
「色んなものを諦めちゃう君だから?」
からかうようにウォーカーが尋ねた。
「ええ」
私は返事をする。
「だからこそ、それだけは自分が決めたと自信を持って言いたいんです」
はは、とウォーカーが笑った。
「確かに、君を選んだのは運命じゃなくて僕自身だって言いたいね」
その声が耳に大変心地良かったので、私は返事をしない事にした。
(哀しいロマンスなんて求めないで)
(貴方が私を選んだという事実が私には何より大切だから)
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