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倉庫
それが僕らの愛の形(銀魂:銀京)
一番大切なものが何か、と聞かれたら、真っ先に思い浮かぶのは多分あの人だと思う。
顔なんてもう当の昔に忘れてしまったし、あの人が何を言っていたかも、その声すらも、もう朧気だけれども。
ただ、あの人を大切だという気持ちは何時までも色褪せない。
俺の根本にはずっと、あの人が息づいている。


だが、同時に思議なものだ、とも思う。
どうして今更守る事も出来やしない過去の人間に執着しているのか。
何故いつになっても過去は過去と割り切れずにだらだらと此処まで来てしまっているのか。

彼はもう死んでしまったというのに。
俺が今更彼に出来る事は何もないというのに。
過去に縛られるというのは俺の性分には合わないはずで、だからこそ解せなかった。



…そこまで考えて、ひょっとしたら今まさに一番大切なものは、あの人ではなくてあいつらかもしれない、と俺は思い直した。
騒がしく、品性のかけらもなく、だがお人好しで憎めない奴らだ。
あいつらに危険が及べば俺は命を賭して助けようとするだろうし、奴らも同じ立場になれば同じ事をするだろう。

確かにあいつらは今の俺にとって何より大切で、必ず守り切らなくてはならないものだから。
大切なものをかつて守り切れなかった俺だからこそ、俺はあいつらを失いたくなかった。
あの人とあいつら、どちらが大切かは分からなかった。
多分、比べるという行為自体が間違っているのだろう。



じゃあ、彼はどうだろうか。現恋人の顔を俺は思い浮かべる。
しかめ面しか思い出せない彼に、知らず笑みが零れた。
彼が俺の大切な人である事は間違いがない。
大切に想えない人間と俺は付き合ったりしないし、彼との関係は別に遊びだとかそんなものでもない。

ただ、彼は俺の中で一番大切な存在か、と聞かれれば、答えは絶対にイエスではなかった。

(早い話が、彼は俺の一番には絶対に成り得ない、という事だ)



彼が大切じゃない訳じゃない。言い訳がましくもごもごと口の中で呟く。
ただ、彼を一番大切と言い切ってしまう事を、俺は心の底で拒否していた。

(何故だろう)

その思いは取り立て重い罪悪感や悲しみを伴うわけでもなく、ただ、純粋な疑問だった。
例えるなら、どうして空は青いのだろう、とか、どうして虹がかかるのだろう、とかそういったものと同じ種類の疑問だ。
どうして俺は彼を一番に思えないのだろう。
そして、その事に関しては、俺はほんの少し驚いた。



…俺は、彼が一番で無い事を当然の事として受け止めていたの、だろうか。
恋人なのに?あの人や、あいつらに比べれば、俺にとって然程必要の無い人間なのだろうか。

分からない。

彼にこの事を伝えたら、一体どんな顔をするだろうか。
そんな事は知っている、と笑うかもしれない。
(彼はいつも、嫌な所で聡い人だから)
けれど、そうか、と何気ないふりを装うかもしれない。
(彼はまた、とても不器用な人でもあるから)
どちらにせよ、あまり愉快ではない反応だと思った。

俺が彼から同じ事を告げられたら、きっと…きっと、何だろう。
驚くだろうか、傷付くだろうか。
そのどちらも違う気がした。
「そんな事は知っている」
そう笑うのは俺の方かもしれない。
だって、彼の一番大切な人は、俺じゃない、から。



…だから、だろうか。
突如浮かんだ答えは呆気ないくらい単純だった。
多分、俺達はどちらも、相手が一番ではないのだ。
同じくらい相手を想っていて、お互いを満たしてくれる間柄ではあるけれど、根源的な部分に相手の姿はまったく見えないのだろう。
寂しい事だ、と誰かが笑った気がした。
それは自分自身かもしれない。
俺達の恋愛なんて所詮そんなものか、と。

そんな愛し方もある、と言えば聞こえは良いが、俺達の関係は妥協の上に成り立っているのかもしれないな、と少し寂しくなった。
お互いに一番になりたくはあるけれど、受け入れる勇気もなく、拒絶される事を恐れ、知らず知らず互いから目を逸らしているのかもしれない。
それはとても悲しい事だ、と思うと同時に、似た者同士の不器用な恋愛に、笑ってしまいたくもなった。



窓から外を見上げれば、太陽が鬱陶しいくらいに輝いている。
彼は今一体何処にいるのだろう。
無性に彼の声を聞きたくなって、今から会いに行こうかな、と俺は独り口元を緩めた。

(君は決して俺の一番ではないけれども)
(それでも、ありったけの愛を君に)










銀京はお互い相手の一番になれないという妥協の上に成り立つラブラブ、という訳の分からない信念に従ったらこうなりました。
自分でも何が言いたかったか分からない…




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