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夢小説(その他)
後編(B)

「オメーそんなとこでへたり込んで、体調でも悪りぃのか?」

ふと顔をあげると、赤みを増した太陽の光を反射させる銀の髪を持った男がいた。

「えっと、あたし…ですか?」

きょろきょろと視線をさまよわせてから、問い返せば男は呆れた口調で答える。

「オメー以外に誰がいるんだよ。」

その言葉に、確かに欄干に座っているのは自分だけだと認識する。

「いえ、体調は悪くないです。」

そう素直に答えれば男は小さく息を吐き出した。

「あぁ、そう。にしては、顔色真っ青だけど?何だ?何か困り事でもあんのか?」

「え?」

「俺ァ、万事屋を営んでんだ。何なら、相談にのるぜ?」

「えっと、実は………。」







アサヒの話を聞き終わるなり銀時は、深い深いため息をついた。

言っちゃあ何だか……付き合ったところで金になりそうな話ではない。

「あの、聞いてくれてありがとうございました。」

吐き出したおかげでスッキリしたのか暗かった顔には笑顔が浮かんでいる。

兄貴を探してやりたい気持ちがないワケではないが、範囲が江戸全域で手がかりさえないのならお手上げだ。

「仕方ねぇなァ」

吐き捨てるような言葉にアサヒと名乗った少女は首を傾げる。

「オイ、ついて来い。一晩くれーなら泊めてやっから。」

「え、でも!」

「どーせ行くアテもねぇんだろ?人の好意は素直に受けておくもんだ。」

その言葉にアサヒはおろおろと視線を動かした。

「心配しなくても、取って食いやしねーよ。」

そう伝えてから帰路につく。

ぱたぱたと後ろを追いかける軽い足取りが耳に届いた。





「銀時さん、修理終わりましたよ。」

ぐいっと右手の甲で汗を拭ったアサヒは、明るい声でそう告げた。

その顔は、オイルで汚れている。

見ればピカピカに磨かれた原付が壊れる前と同じ姿で置かれていた。

「器用なもんだなァ。お前、機械いじんの好きなのか?」

「はい。」

こくんと頷きアサヒは腰に下げていた工具入れをポスンと叩く。

万事屋につくなりアサヒが目に止めたのは一台の原付だった。

明日にでも修理に出そうとしていたそれをアサヒが修理してみると言い出したのだ。

まぁ、これ以上壊れようもないからと半信半疑で修理を任せて見れば予想以上の結果。

思わぬところで恩返しをしてくれたワケだ。

「あーあー……ベタベタじゃねぇか。風呂貸してやるから入ってこい。」

「あ、ありがとうございます。」

「ほら、これも貸してやる。」

バサバサと折り畳まれた着物を渡せばアサヒはきょとんとした表情を向ける。

「女物なんてねぇーからな、俺ので我慢してくれや。」

「すみません、ありがとうございます。」

「あ、心配しなくてもコレは新品だから。」

薄いビニールに入ったままの下着を指せばアサヒは気恥ずかしそうに笑った。




「それで、アンタの兄さんとやらは江戸で何をしてんだィ?」

「……………」

お登勢の問いかけにアサヒは黙り込む。

「何だい?ヤバい仕事でもしてんかィ?」

「いえ、そうじゃなくて………知らないんです。兄が家を出てから連絡一つ取れない有り様で………父の遺品を整理してたら偶然江戸に来た頃の手紙を見つけたんです。それで、いてもたってもいれず………慌てて江戸に来たんです。父は、兄と仲違いしたまま………でしたから。」

「って事は仮に住所が分かっていたとしてもそこに住んでるとは限らなかったって事ですか?」

新八のツッコミに

「や、でも行けば転居先も分かるかな、と思って………」

とアサヒは反論する。しかしそれも

「甘いアル。ババアが作る卵焼きより甘いネ。江戸の人は無関心ヨ。」

という神楽の言葉に打ち砕かれアサヒはシュンと俯いた。

事前に連絡をしなかったのではなく、わずかな希望を壊しそうで出来なかったのだろう。

それが容認に想像出来るだけに酷な話だ。

「まぁ、何か情報があったら教えてやるよ。」

そんなお登勢の言葉にアサヒは深々と頭を下げた。

「それで、アンタこれからどうするつもりだい?」

「とりあえず、仕事を探そうかと………全財産持っていかれちゃったので。」

内容の割には、明るい口調でアサヒは答える。

「そういえば、姉御が人手が足りないって言ってたネ」

もっさもさと白米を炊飯器から流し込みながら神楽が口を挟む。

「お妙ちゃんのとこかい?あぁ、アンタは器量良しだからね。悪くないだろうさ。何ならうちで面倒を見てもいい。」

その提案にアサヒはパッと明るい表情を浮かべた。

「でもアサヒさん、機械いじり得意なら平賀サンのとこ紹介した方が良いんじゃないですか?」

ぼそりと新八が呟いた言葉に銀時は小さく頷く。

「そーだなァ。平賀のジジーも喜ぶかも知れねェ」

そう続いた銀時の言葉にアサヒが鋭い声をあげた。

「平賀って………まさか平賀源外さんですか?」

「んぁ?何?お前、知り合いなの?」

いちご牛乳を飲みながら問い返した銀時にアサヒは滅相もないとばかりに首を振る。

「あたしが神様と知り合いなワケないじゃないですか?!」

「は?カミサマ?え、何?ジジー教か何か?悪い事は言わねー……今すぐ改宗した方がいいぞ。」

「怒りますよ。」

銀時のふざけた物言いに釘を差し、アサヒは目を輝かせる。

「平賀源外と言えば江戸一番のカラクリ技師じゃないですか!あたしにとっては神様みたいな人なんです!」

きらきらと子供のように目を輝かせるアサヒに銀時はにぃっと笑い

「決まりだな」

と告げた。







「ありがとうございました!」

明るいアサヒの声を聞きながら、銀時はのんびり茶を啜る男を見つめた。

「楽しくやってるみたいだな。」

ポツンと呟いた言葉に

「あぁ、お前さんと違って真面目に働く。まるで、娘が出来たようだ。」

「随分、年の離れた娘だな。」

からかうような銀時の言葉には答えず平賀は目を細めた。

亡くした息子の事を思い出しているのかも知れない。

「しっかし、ひっきりなしに客が来るもんだね。ジーさん、こんなに繁盛してたのか?」

「馬鹿言うな。お前が支払わねーから毎月赤字だよ。………まぁ、アサヒが来てからな…随分、仕事も増えたもんさ。」

「そりゃ、ジジイに修理されるより若い娘の方が機械も嬉しいだろうよ。」

「ちげーねェ………そんで、銀の字………オメーわざわざ、そんな事言いに来たのか?」

「冗談言うなよ。影で泣いてるお姫さんを元気にする妙薬を持ってきてやったのさ。」

一枚の紙切れを見せながら銀時は笑う。

「オメー……そいつはもしかして、」

平賀の言葉に肩をすくめてから銀時はアサヒの名を呼んだ。

「ほれ、今度はなくすなよ。」

白い紙に書かれた、一つの住所。

「銀時さん、これ………」

泣き出しそうなアサヒの言葉に

「おかげで江戸中駆け回ったぜ。感謝しろよな。」

と答えれば、小柄な体がぎゅうっと抱きついて来た。

「ありがとうございます!ありがっ………もう、諦めてたんですっ………」

泣きじゃくるその頭を撫で銀時は笑った。

「相談にのるっつたろ?俺ァ、嘘はつかねーよ。だから、もう泣くな。女の武器が涙なんて古くせーんだよ。笑顔の方がよっぽど使えらァ」

「―――っ、はい!」

ひまわりみたいな笑顔を浮かべアサヒは明るい声で頷いた。

「よぉーし、そんじゃ行って来い!」

そうアサヒの背を押して銀時は満足そうにまた笑った。



―――――――――
銀さんオチです。
こちらのお兄さんは完璧オリジナルな上、名前すら出てきません(笑)

抱きつく主人公を慰める銀さんが書きたかったせいで、微妙に無理矢理前編に繋げた感じがありますが、許して下さい。

アサヒさんお付き合いありがとうございました。

よろしければ、他の後編もお目通し頂けたら幸いです。

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