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夢小説(その他)
下級魔人は言葉足らず(ネウロ ギャグ?)

通いなれた事務所までの道のり。

大量のお菓子の入ったコンビニ袋片手に軽い足取りでエレベーターに乗り込むと弥子は目的の階数のボタンを押した。

淡いランプが灯り、弥子はゆっくりと増えていく数字を眺める。

最近、事務所へ行くのが楽しい。

ネウロに脅されて引きずるように歩いた道を、今ではスキップをしながら歩いている事を弥子は自覚していた。

その理由は、やはりアサヒだろう。

サクヤに連れられ人間界へやってきた下級魔人。

ネウロやサクヤの暴力という名の愛情を受けながらも歪む事のない真っ直ぐな性格の彼女は、優しい人だ。

他人の感情には、人間と同じくらい、いやそれ以上に敏感なのに自分に向けられる感情には恐ろしく鈍い。

そんなアサヒの事、もっと知りたい。もっとたくさんの時間を共有したい。

ふと浮かんだ気持ちに弥子はくすりと微笑んだ。

まるで、恋する乙女みたいだ…なんてらしくない事を考える。

軽い音を立てて開いたドア。

誰かに呼ばれたエレベーターが動き出した事を背中で感じ弥子は事務所のドアを開いた。

開いた瞬間、顔面を襲う圧迫感にはもう慣れてしまった。

「我が輩を待たせるとは良い度胸だ。このゾウリムシがッ」

そんな鋭い声が耳に届く。

「…うぅ、離してよぅ」

情けない声をあげながら抵抗すれば、大きな手のひらがゆっくりと離れ、視界が広がった。

そこで何時ものメンバーがいない事に気づいた。

「あれ…アサヒさんは?」

「貴様と違いアサヒは忙しいのだ。そんな事より謎を探しに行くぞ。僕1号。」

「えぇッ!今来たばかりなのに?!まだおやつ食べてない!」

「我が輩は空腹なのだ。それとも貴様は、主人を差し置いて……」

「分かったよ。行く、行けば良いんでしょ!」

渋々机に菓子の詰まった袋を乗せ弥子はため息とともにそんな返事を口にした。

「…………チッ」

その言葉にネウロはあからさまに舌打ちを漏らす事で答える。

その舌打ちに恐怖すら感じながら弥子はもう一度深いため息をついた。



アサヒがいないせいか、ネウロの機嫌が悪い気がする。

ブツブツと断片的に聞こえてくる

「調教が足りない」

とか

「あの蛞蝓はどこを這い回っているのだ。」

などの言葉は間違いなくアサヒへ向けられているのだろう。

「でも、本当にどこに・「ありがとうございました。」

朗らかな声は明らかに聞き覚えのあるもので、

2人組の少女に手を振る姿は見間違えようもない。

「アサヒ…貴様、何をしている。」

「ネウロ様。」

にこりと微笑んだ下級魔人は

「…見ての通りお仕事です。」

と胸を張って答えた。

そんなアサヒの頭を掴みネウロはギロリと鋭い瞳を向ける。

「ほぅ、事務所の仕事をさぼって働いているからには、それなりの理由があるのだろうな?」

「そ、それは…その…」

もじもじと言いにくそうにアサヒは視線をさまよわせる。

「…人間の通貨が欲しかったものですから…。」

「金だと?まるで我が輩が貴様を無償で働かせているかのような発言だな」

「無償で働いてますが…。」

珍しくアサヒが突っ込みを入れる。

「ほう、奴隷の分際で主人に意見か?偉くなったものだな…ん?」

ガシリと頭を掴んだ手に誰の目にも明らかなくらい力がこもる。

「痛ッ…ネウロ様ァ、痛い痛いですッ」

泣きながら訴えるアサヒをいびるネウロの顔は子供のように輝いていた。

ぎゃあぎゃあと店の前で騒ぐ2人の魔人の前で店のドアが開く。

「アサヒちゃん、お客様の迷惑になるからもう少し静かに・あ、あんたは…ッ」

そろりと開いたドアの隙間から顔を出した男はにこやかな微笑を一瞬で凍り付かせる。

「あ、吾代さんと一緒に働いていた人だ!」

弥子の言葉に男、速水幸敏はびくりと身をすくませ怯えた顔でアサヒを見つめる。

「アサヒちゃん、こっ…こいつらと知り合い?」

「はい、店長もお知り合いですか?」

くるりと振り向きアサヒは微笑む。

「アサヒちゃん、悪いんだけど今この場でクビ。」

速水は怯えた口調で呟くとパシンとアサヒの手に数枚のお札を握らせた。

「お疲れ様、じゃあね…」

「店長ッ…………え。な、何事…………」

アサヒは知らない。

彼がネウロにどんな目にあわせられたのか…

そして彼がいかにネウロと関わりたくないと考えているのか……

唖然としたまま立ち尽くすアサヒにネウロはクスクスと意地悪な笑みを零した。

「アサヒ、貴様勤務態度が悪すぎたのではないのか?」

…………100%あんたのせいだ。

その言葉は、睨まれた事によって弥子の腹の中に収まる。

「せっかく見つけた仕事だったのに…。こんな調子では何時までたっても……」

がっくりと肩を落としアサヒはうめく。

「アサヒ、何か欲しいものでもあるの?」

弥子の言葉にアサヒはちらちらとネウロを気にしながら答えた。

「欲しいものというか…あげたいものといか…」

いつになく歯切れが悪い。

「…………なんだ。ジロジロと…我が輩の顔に何かついているのか?」

不愉快そうなネウロの声にアサヒはぶんぶんと首を横に振る。

小さく鼻を鳴らしたネウロにアサヒは視線を下げ黙り込んでしまった。

もしかして、アサヒ…ネウロに何かあげたいのかな?

誕生日…とか?

「…む、微弱な謎の気配だ。行くぞ、弥子」

ピンと髪をたて、呟くネウロにアサヒは小さなため息をもらす。

「ネウロ、先に言ってて!すぐに追いかけるから!」

それだけ告げると弥子はアサヒの手を引き、路地裏へ駆け込む。

「アサヒ、何か悩み事?その…ネウロに関する事とか。」

弥子の言葉にアサヒは、驚愕したような顔を浮かべ…こくりと頷いた。

「…やっぱり。」

「どうして…わかったんですか?」

「どうしてって…あんなにネウロを気にしていたら誰にでも分かっちゃうよ。」

「ネウロ様には言いづらくて…、その…人に何か贈るという行為をした事がないもの、ですから…。」

途切れ途切れなアサヒの回答に弥子は頭をフル回転させた。

ネウロへのプレゼント…………

プレゼント、ネウロ…

ネウロが喜ぶもの…

全然思いつかない。

あのどS魔人が喜ぶもの…喜ぶ、もの…

『謎』くらいしか出てこない。

頭を抱えたまま弥子はうめく。

「私なら食べ物が一番嬉しいけど…謎なんて売ってないしなぁ…。」

「食べ物、ですか?」

「そう、この前できたケーキ屋のシュークリームが絶品で!何が美味しいかというと…まず、中のクリームが…」

語り始めた弥子にアサヒはにこりと微笑んだ。

「弥子さん、ありがとうございます。参考になりました。」

「お腹いっぱいになるくらい食べた…………え?本当に??」

「はい、あ…早く行かないとネウロ様に怒られますよ。」

アサヒの言葉にパカンと携帯を開き弥子は悲鳴をあげた。

「うわっヤバいッ!アサヒまた後でね!」

猛ダッシュで走り去る少女に小さく手を振りアサヒは呟いた。

「食べ物、か…。」







「このミジンコが!貴様のせいで我が輩は飢え死にするところだったぞ。」

事務所に戻る道すがら吐き捨てるように呟かれた言葉に弥子は半眼でうめく。

「…だから謝ってるじゃない!」

「謝罪すれば良いというものではない。とりあえず、我が輩の靴を舐めて許しを乞うのだ。まずはそこからだ。」

「ネウロがアサヒに謝るのが先でしょう?」

「謝る?何故だ?」

「あんたのせいでアサヒはクビになったんだよ。全く、あんたの為に頑張ってるのに…。」

その言葉にネウロはきょとんとした表情を浮かべた。

「…………アサヒが我が輩の為…?どういう事だ。」
「…さぁね。自分で少しは考えたら?あんた魔界の謎を食い尽くした男なんでしょ?謎以外の事は、何にも知らないんだから!」

弥子の言葉にネウロは小さく笑い

「ははは、無知ですまん。答えを教えてもらわねば、貴様の頭をこのまま握りつぶしてしまいそうだ。」

頭を掴み明るい声を出したネウロに弥子は悲鳴をあげた。




「…………だから、アサヒはネウロの為に頑張っていたのに、それをネウロ自身が邪魔しちゃったって事!」

弥子の言葉にネウロは口元を手で覆ったまま固まっていた。

白い頬が朱色で染まっている。

好意を抱く人物から贈られた感情に戸惑っているのかも知れない。

「少しはアサヒの事考えてあげなきゃダメだよ。謎ばかり追いかけてないでさ!」

いつになく饒舌な弥子の言葉も耳に入らないのか…日頃彼女を苦しめるどS魔人は思春期の少年めいた顔で何もない空間を見つめていた。

事務所のドア

この先にアサヒがいる。

日頃、気にした事もない当たり前の事に心音が高鳴る。

「緊張してるの?あんたそんなタイプじゃないでしょ…」

呆れたように弥子は呟くと、躊躇いなくドアを開く。

その瞬間、鼻孔をくすぐった甘い香り

「うわ〜…美味しそう」

続いて嬉々とした弥子の歓声

事務所の机には大量のシュークリームがピラミッド状に積み上げられていた。

「弥子さん、おかえりなさい。お疲れ様でした。」

アサヒはにこやかに笑う。

「しかも、これってさっき話てたケーキ屋のシュークリーム!食べて良いの?」

「はい、弥子さんに喜んで欲しくて買ってきたんです。」

「嬉しいっ!いっただきまーす!ん〜ッ!おいし〜」

パクリとシュークリームにかぶりつき、弥子は幸せそうに笑う。

その姿をアサヒは微笑ましそうに見つめていた。

順調になくなっていくシュークリームの山、止まる事なく動いていた弥子の手を止めたのは、

「弥子…貴様、我が輩を謀ったな…。」

低い低いネウロの静かな声

「えっ…いや、まさかそんな…あ、あはっ…あはははは。だってアサヒがネウロの事で悩んで…」
徐々に小さくなる声

「勿論、ネウロ様の分も用意致しました。どうぞ」

同じように山となったシュークリーム…

げんなりとした顔をしたネウロにアサヒは微笑む。

「このシュークリームの山の中に、偽物がいくつか混ざっています。それを当てて下さい。ネウロ様は食べる事が出来ないので弥子さん、代わりに食べてあげて下さいね。ネウロ様がミスすると弥子さんが困る…というゲーム内容です。」

「ほう…」

ネウロの口元がにぃっと上がる。

「…なんて迷惑なゲーム設定!」

弥子の悲鳴にアサヒは笑顔を浮かべた。

「弥子さん、ネウロ様を信頼して下さい!ネウロが見抜けないなんて事、万に一つもありえませんよ!」

あぁ、はじめてアサヒが魔人に見えたよ。

彼女は、ネウロという人物が理解できていないに違いない。

間違いなく偽物を食わせられる。

絶対に!

となりで見分ける上での説明をするアサヒにSOSを送るが全く気づいていない。

話を聞くネウロの口元が見たこともないほど楽しげに笑う事を視界のはしに納め、弥子は神に祈った。

祈り続けた。




「………こちらが本物。こちらが偽物だ。」


白い皿の上に見た目では全く見分けがつかないシュークリームが置かれている。

「…………ち、因みにさ…偽物を食べたらどうなるの?」

「偽物には、わさびが入ってますので辛いと思いますよ。」

アサヒはにこやかに笑う。

「あ、そのくらいなら大丈夫そう。」

わさびは体に害もないし…てっきりネウロみたいに魔界の泥とか仕込まれているかと………。

ほっと息をついた弥子の目に飛び込んできたのは、ビニール袋に入った尋常ではない量の練りわさびの空箱

「アサヒ………あ、あれは一体…。」

震える指先で差し示せばアサヒは困ったような顔で笑う。

「わさびってどのくらい辛いものか食べれないあたしにはわからなかったので、とりあえずスーパーに並んでいたのを全部使ってみたんですけど……もしかして足りなかったですか?」

悪意無き拷問!?

そんな弥子の心情を読み取ったのか耐えきれないようにネウロは笑う。

「案ずるな、弥子。我が輩が貴様にわざと偽物を食わせるわけがなかろう。」

にっこりと笑うネウロの顔………その顔にSの文字が浮かんでいる気がした。

「………アサヒ、あの…さ、どうしてもやらなくちゃダメ?」

上目遣いで懇願してみせればアサヒは、困ったように眉を寄せる。

「大変愛らしいですが…そこは、ネウロ様に相談して頂かないと。」

何故?!

表情でそう伝えればアサヒは苦笑しながら答える。

「ネウロ様に何か欲しいものややりたい事がないか以前聞いた際にですね、ロシアンルーレットがしてみたいとのご要望だったものですから。しかし、拳銃を買うお金が足りなくてですね………仕方ないのでこういう手段を取らせて頂きました。弥子さんのアドバイスのおかげです。」

「私っ?!」

「弥子さんの食べ物というキーワードでテレビでこんな事していたな…と思い出しまして。こちらから希望を聞いておきながら、別の事にして欲しいとは言いづらいですし………。」

つまり…あの

『ネウロ様には言いづらくて…、その…人に何か贈るという行為をした事がないもの、ですから…。』

という短い言葉には

『(ネウロ様にしたい事をお聞きしたらロシアンルーレットをしてみたいと言われまして今更拳銃を買うお金が足りないとは)ネウロ様には言いづらくて…、その…人に何か贈るという行為をした事がないもの、ですから…。(他の代用手段が思いつかずネウロ様の事で悩んでいます。)」

という長ったらしい説明文が抜けていたという事…

「ちょうど、弥子さんがシュークリームを食べたいと言ってくださったので助かりました。」

気づかないうちにとんでもない地雷を踏んでいたらしい。

「さあ、弥子。こちらのシュークリームを食べるが良い」

突きつけられる皿

初めてだ。

こんなに食べたくないものに出会ったのは………。

「弥子…貴様、我が輩を謀った事を忘れたわけではないだろう?」

ぼそりと耳元で告げられる言葉。

「あんなの…誰だって勘違い・「嫌か?」

口元に指を寄せ、ネウロは強請るような顔をする。

「だってこんなの食べたら・「嫌なのか?」

食べないと殺す気だ!

「いっ…ただきます…。」

「流石は、僕1号だ。」

にこやかに笑う魔人に見守れながら弥子は口を開いた。

パクリと口元へ含んだ瞬間の恐怖と激痛を私は一生忘れないと思う。



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アンケートでリクエスト頂きました下級魔人主人公ギャグ夢

ギャグになったでしょうか?

アサヒさんお付き合いありがとうございました。

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