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夢小説(その他)
恋心(ZONE-00 弁天)

キラキラと金の鱗粉を撒きながら舞うように飛ぶ蝶の姿に誰かを重ねてみたり…澄んだ空の色に誰か思い出したり…

なんてらしくないのだろうと…そう思うわけだ。



光を零す金髪と澄み渡る空を溶かし込んだような瞳。

白くしなやかな肢体

「……………はぁ」

ため息を零せば、目の前に立つ美の女神はきょとんとしたような顔をする。

そんな顔でさえ絵になるのだから、妬ましい。

「…………弁天ってさぁ………」

「ん――――?」

こくりとビールの入ったグラスを傾け男は視線だけで話の続きを促した。

「好きな人いるの?恋人作るの大変そうよね。」

その言葉に細い体がびくりと跳ねる。

器官に入ったのか激しく咳き込みながらこちらを睨む。

その様が、扇情的で…神様ってものがいるなら実に不公平に生き物を作ったものだと思った。

「――……ッゲホ、お前、何…」

「だって弁天ってそこらの女の子より綺麗じゃない?スタイル良いし…あ、胸はないけど…まぁ、スレンダーな美女的な…うん、」

「いや、意味わかんね―…」

動揺のせいでグラスから零れてしまったビールを片付けながら呻けば、目の前の女郎蜘蛛は続けた。

「それだけ綺麗なら好きになる人の理想も高そうだし…。」

ズズーッと行儀悪くアサヒはアイスコーヒーを啜る。

「そんな事ねぇよ。」

「そう?」

くるくるとグラスの中で沈む氷をストローでかき混ぜながらアサヒは答える。

「………それに俺が誰を好きでもお前には関係ないだろ?」

新しいグラスにアイスコーヒーを作る事でアサヒの澄んだ瞳から顔を隠す。

「まぁ…ね、ただ思ったのよ。」

空になったグラスと新しくアイスコーヒーが注がれたグラスを交換しながら、アサヒは続けた。

「女の子なんて生き物は、常にコンプレックス抱えて生きてるわけじゃない?コンプレックスと無縁の弁天と付き合える女の子ってどんな子なのかなって。」

クスクスとアサヒは楽しそうに笑う。

何時もより赤らんだ頬が彼女が酔っている事を告げる。

今なら、聞ける…

さり気ない感じで…

ずっと尋ねたかった事を。

随分と気弱になっている己に気づき弁天はぐいっと一気にグラスをあけた。

一言ですむ。

俺の事をどう思っているのかと。

先ほどビールを流し込んだばかりだというのに、口が乾く。

言葉が出てこない。

そんなこちらの心情に気づかないまま、アサヒはグラスの氷をまわす。

カラカラという小気味よい音を響かせながらアサヒは、ポツリと呟いた。

「あたしだったら…嫌だな…。」

「何がだよ。」

「弁天みたいに綺麗な男の横歩くの。」

「………………。」

「ただでさえコンプレックスの塊なのに弁天の隣に立つなんて…考えただけでも恐ろしい話じゃない。」

からからと笑うアサヒの言葉は、清々しいくらい爽やかで、嫌味の欠片も感じさせない。

相手が彼女でなければ、間違いなく自分も

『テメェが俺の隣に立とうなんざおこがましいにもほどがある。』と笑う事ができただろう。

しかし、今の自分の顔は、凍りついていたに違いない。





「―――――で、柄にもなく凹んでいるわけか。」

叢雲の言葉に弁天は深い深いため息をついた。

「真っ正面から言われたら流石に凹む。」

「でもアサヒは、お前の気持ち知らないんだろう?別に嫌いだと言われたワケじゃないんだ。気にすんな!」

豪快に笑う叢雲が憎い。

この男ならば悩む事もなくこの思いをアサヒに伝える事が出来たのだろうか?

嫌になるくらい今の自分は臆病で、吐き気がするくらい情けない。

伝える言葉は、決して長くはないというのに何故伝える事が出来ないのだろう。

たった一言…

『愛してる』

そんな言葉で終わるのに。





店の中に黙っていると嫌な事ばかり考える。

気分転換にと外へ出ればアサヒの姿を探してしまう。

あぁ…もう重症だ。

見れたものじゃない。

そう第三者としての意見を頭の中で反芻するが、本人の気持ちに正直な視線と、足はふらふらとさ迷った。

「何…やってんだ、俺…」

ポツリと呟けば、愛しい人の声が聞こえた気がした。

まるで誘われるように…金色の鳥に姿を変えふわりと空へと飛び立つ。

高くなった視界…

低くなった大地の隅で彼女は微笑んでいた。

そろりと近づけば、声が響く。

「心配しなくとも、君は綺麗な蝶になるよ。」

小さな背丈の木の枝、青々と茂る葉っぱの上

そこで小さな蝶の子供は空へ向かって背伸びをした。

「………お姉さんに追いつきたいならたくさん食べて大きくならないと、ね。」

クスクスと笑う声

アサヒが一人で話しているだけに見えるが女郎蜘蛛である彼女には蝶の子供の言葉がわかるのだろう。

時折、小さく相槌を打っている。

隠れるように話しているのは、端からみたら変なヤツだと思われるからに違いない。

「……………じゃあ、あたしがキミに名前をあげよう。キミがこの世で一番美しい蝶になれるように…。そうだなぁ…『菊』というのはどう?あたしがこの世で最も美しいと思う人の幼名から一文字とったんだ。」

ふんわりとした微笑は、花が綻ぶようで…思わず見とれてしまった。

「…………菊、早く大きくなってその姿を、あっ…」

パシンと何かが枝を叩く音、アサヒの小さな悲鳴。

素早い動きで菊を掴んだ影は見る見るうちに遠ざかりやがて見えなくなった。

自然の理

何もおかしな事じゃない。

どこでも行われている生きるための連鎖

その当たり前の事に、不思議と足の力が抜け…あたしはぺたんと地べたに座り込んだ。

「……………変な名前つけなければ良かった。」

後悔しても、こぼれた言葉は戻らない。






「アサヒ、」

うなだれた少女に声をかければ、泣き出しそうな顔をしてアサヒが視線をあげた。

その事にぎょっとしたような表情を浮かべれば、アサヒの細い腕が腰にだきつく。

ただでさえ小柄な身体が座り込んでいる事でますます小さくなり…まるで幼子のようだと弁天は思った。

「弁天〜ッ、変な名前つけなきゃ良かったよぉ…」

涙声で呟かれた言葉に弁天は眉をよせる。

「変な名前って…」

「だって、名前あげちゃったんだもん。弁天の幼名一文字。あげた瞬間いなくなるなんて縁起悪いよ〜ッ!」

わぁあっと泣きつく姿に思わず笑みがこぼれる。

「アサヒ、」

ポンポンと頭を軽く叩き弁天はにぃっと笑う。

「………良いもの、見せてやるよ。」







「そんなにしがみちかなくても落としたりしねーよ」

細い腕がぎゅうと自身にすがりつく。

「高い。怖い…」

弁天には見れなれた光景だが翼をもたないアサヒにとっては地に足がつかないという状況がよほど恐ろしいらしい。

恥ずかしいから下ろしてと所謂、お姫様抱っこの状況に喚いていた唇は今はきゅっと結ばれている。

「…………。」

「アサヒ、下見てみろ。」

恐る恐る弁天の顔からアサヒの視線が外へと向く。

茜色に染まった空と同色に染まった海

「…………綺麗」

ポツリと呟かれた言葉に弁天は満足そうに微笑んだ。

「………なぁ、アサヒ。」

「んーっ…?」

目の前の光景に見入っているらしくアサヒの反応は少し鈍い。

「何で…『菊』ってつけたんだ?」

弁天の言葉にアサヒは黙り込んだ。

心地よいとすら感じる沈黙の末、アサヒは弁天へ視線を送る。

「………綺麗だから。綺麗な蝶になりそうな気がするでしょう?」

にこりとアサヒは笑う。

ちらちらと太陽から零れ落ちた光の粒が舞う。

それはさながら、蝶のまく金の粉のようで………

愛おしそうにそろりと指先を伸ばしアサヒは呟いた。

「………空を駆ける鳥は捕まえられないけれど、宙を舞う蝶は捕らえられると思ったの。菊に触れれば、少しだけ…。」

あなたに近づけそうな気がして…

そんな続きは口の中で呟きアサヒは、小さく自嘲した。

馬鹿げた話だ。

どれだけ空へ糸をはいても、何も捕らえる事などできはしないのに…。

「…なぁ、アサヒ。」

アサヒの気持ちが分かった事で少しだけ…饒舌になる事を自覚しながら弁天は呟いた。

「オオジョロウグモは…鳥も捕らえる。だったら、女郎蜘蛛のお前に俺が捕らわれてもおかしくはないよな?」

喉を鳴らして笑えば、女郎蜘蛛はぽかんとした顔の後夕焼け以上に頬を染めた。

言葉なんて少なくて良い

ただ一言

「愛してる」

それだけで十分





キラキラと金の鱗粉を撒きながら舞うように飛ぶ蝶の姿にあなたを重ねてみたり…澄んだ空の色にあなたを思い出したり…

そういう瞬間に、愛しいのだと強く思う。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


なんであたしが書く弁天はヘタレっぽいのだろうか…?

アンケートで頂いた弁天甘々夢…を目指しました。

明希さん、アンケート参加ありがとうございました。こんな出来で申し訳ないです。

アサヒさんお付き合いありがとうございました。

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あきゅろす。
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