紫陽花
5
「はい、タオル。」
「あぁ、悪い。」
ガシガシと荒く頭を拭いている様子は、すっかりいつもどおりだ。
…さっきまでの色香とか優雅さが信じられない。
「恵ちゃん泊まってく?」
「…んー?」
濡れたでしょ、と乾いた服を渡しながら言えば、
「じゃ、お言葉に甘えて。」
と柔らかな色をした瞳が乱れた髪から覗いた。
…きっと、恵ちゃんは何にも聞かないんだろうなぁ。
「この服、こないだ俺が忘れたのか。
…慈雨がこんなに大きい訳無いよな。」
渡したTシャツを広げながら些細なことに微笑みをこぼす姿が、何故だか胸に染みた。
…きっと、気付いてない振りをするんだ。
僕のために。
「…布団、とってくるね。」
何も言わない。
何も聞かない。
知らないという、その態度が崩れることなんてないだろう。
恵ちゃんは優しいから。
それでも。
「慈雨、
……要らないよ。」
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