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てのひら
缶コーヒーで乾杯

 くだらないことで怒らせてばっかり、でも次の日には一緒にげらげら笑って。
 女らしくないけど髪振り乱して大笑いして、そうやってずっと、一緒にいたんだ。
 卒業のその日も、なにも考えずにいつも通りにばいばいって、言ったんだ。
 こんなに会えないなんて、こんなに淋しいなんて、思いもせずに。
 あの時、おうまたな、って答えた君の顔が、笑ってたのか悲しそうだったのかももう思い出せなくて。
 だから。
 だからね。

 ゆるやかな坂の上にあるコンビニ、機嫌いいのか悪いのかもわからない仏頂面で藤谷は立ってる。わたしは急いで一息に坂を駆け上がった。

「待たせて、ごめん……!」

 目の前でぜいぜいと息をするわたしを散々馬鹿だと笑った後で、藤谷は呟く。

「……、さみィな」
「待たせて悪かったって! 言ってる、じゃん!」
「いつまで息切らしてんだよ……、」

 そう言って藤谷はまた、笑う。
 久しぶりとか、最近どうとか全然そんな話はしないで、いきなりそんな風に話しかけられたのが嬉しかった。
 コンビニに入って、肉まんとコーヒーを買った。店から出るとやっぱり寒かったけど、手の中だけはぽかぽかしてた。
 吐いた息は白くて、二人でちょっと笑った。

(しあわせ、だなぁ)

 ぼんやり、そう、思った。

(一緒にいられたら、いいのに、な)

 そうして藤谷を見た。藤谷もこっちを見た。それと同時に、店の中でも馬鹿みたいに喋ってたのに、ふと、どっちもが黙った。
 藤谷の口から、白い息がゆっくり吐き出されて、消えた。

「……、びびった、電話、久々すぎて」
「うん、ごめん……、」

 呟く藤谷の声が静かで、思わず私も静かな声が出た。

「用事?」
「……ううん、」
「おまえ……」

 藤谷が苛ついたのがわかって、私は慌てて告げる。

「だって、会いたかったんだよ!」

 思いの外強い声になって、私も驚いた。藤谷もびっくりしたみたいだったけど、ちょっと俯いて、それから唇で笑った。

「いいなおまえは、シンプルで」
「褒めてない!」
「羨ましいっつってんの」
「は?」
「わかんなくていーよ」

 ふっと空を見た後、藤谷はコーヒーを開けた。私もそれに従って開ける。
 今にも口が付けられそうなその缶に、私は自分の缶を軽くぶつけた。

「な……っ」
「カンパイ!」

 怒り出しそうな藤谷につよい口調でそう言った。

「は!?」
「誕生日! オメデト! プレゼントないけどごめんっ」

 わたしがそう言って笑うと、藤谷がすごくぽかんとした、間の抜けた顔をしたから。
 声を上げて笑った。


(好きなのは、誰?)
HAPPY HAPPY
    birthday!


(気付いたんなら、)
(一緒にいよう!)


「次までにプレゼント用意しろよ」
「次っていつよ」
「いつでも。呼べよ」
「えっ?」
「会いてェし俺も」
「!」


100420
企画「1211」様に提出分を改稿


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あきゅろす。
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