てのひら 仮定の話をするのならば !注意! この作品は「引き返し可能な地点にて」「浸食されゆく感覚に酔う」「犠牲の支払いは既に完了」の続きです 当たり前の恋が出来なかったことは、互いの大きな傷になっている。 頭の中の冷静な自分が、そう告げた。 (わかってる、それでも、) あの腕の中の幸福を、知ってしまった、から。 「由樹、」 そう呼ぶ一樹の声の優しさを、甘さを、愛しく思ってしまった、だから。 (どうしようもないことだって、) つないだ手を、うまく離せずにいる。 (ある、でしょ) 身体も心も確かに結ばれていると思えるのに、幸せになれない、恋。 そんなことは、重々、承知だ。 どうせ赦されなくても、この身体は一樹を求めてしまうから。どうせぼろぼろになるなら、孤独に苛まれるより、二人でいる罪悪感で、息絶えてしまう方がいい。 ただそれだけ。 腕の中で喘ぎながら、それでもどこかに冷めた自分がいて、ずっとずっと問いかけてくる。 それに気付いていても、最早考えられるだけの気力もない。 ないのにずっと、頭の中から、消えなくて。 例えばわたしたちが当たり前に姉弟だったら、と。 両親が別れることもなく、当たり前にいつも一緒に、ずっと一緒に、いたなら、と。 冷めた声がする。 こんな風に惹かれ合うこともなかったのだろうか、 それでも、惹かれ合っただろうか、と。 惹かれ合っても、 踏みとどまれたのだろうか、と。 しつこくしつこく、問いかけるから。 「ごめんね一樹、ごめん……、っ」 小さく、呟いて、しまう。 聞こえないふりをした一樹が、精一杯のつよいちからで由樹を抱きしめた。苦しいほどつよく。 もう一度のごめんの代わりに、由樹はただ、噛みつくようにキスをした。 誰にも言えない、 キスをした。 仮定の話 (姉弟じゃなかったら、) を (なんて、) (しあわせな仮定は、しない) するのならば (これ以上、) (絶望、) (しないように……、) 100111 タイトルは「キラキラ」様よりお借りしました。 このシリーズも次の1話で終わる予定です。 新年早々暗い話ばっかりですいません。 [*前へ][次へ#] [戻る] |