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煙草の香り 3
あれから、彼女と会うことはなかった。
公園に煙草の香りが、煙が、漂うことも、もう、なかった。
彼女が大学を辞めたこと、引っ越したらしいこと、高瀬は総て、あとから、噂で聞いた。
高瀬も、最後の夏を、終えようとしている。
別れを告げることも、想いを告げることさえも許されなかった恋は風化して、もう、高瀬を苦しめることはない。
それでも。
煙草の香りがする度、思い出す。
苦しくはない。悲しくはない。けれど、ただ、思い出す。
彼女の冷たい横顔を。
サンダルの足のペディキュアの色を。
踏みしめられた吸い殻を。
そして、
好きだ、と、最初に気づいた、
あの、優しい時間を。
煙草の香り
(今でも貴女しか思い出せない)
俺に会いに来てくれたんだよな、
と、
好きでした、
と、
今ならきっと、
言えるのに。
「そして時間は動き出す〜過去」様に提出。
参加させていただき、ありがとうございました!
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