present for you 春を、追う。 4 「合格して、安心したら、急に気になって……、まぁ、虫のいいハナシなんだけど」 私はただ、待っている。話の先を。行き着く先を、ただ、静かに。 「で、君をつかまえちゃって、今に至るわけなんだけど」 逆説が多いな、とか、関係ないことを考えていたから、ふと、聞き逃しそうになる。 「……俺は春から、すぐそこの大学の学生だよ」 先輩は、すい、と左手をあげると、すぐ先の路地を指差した。確かにその先には県立の大学がある。 「今から俺は身勝手なことを言うけど……、断る自由もあるから、それを忘れないで聞いて」 「はい」 はっきりと返事をした私に、先輩はほんの少し笑って、それから、言葉を紡ぎ始めた。 「俺は君を知らないから、好きだとは言えない」 「……はい」 「だけど、卒業式の日に話した君に、興味もあるし、知りたいとは思う」 「……はい」 「でも、知ったからといって、好きになれるかどうかは、また、別の問題」 「わかります……」 「それを踏まえた上で、とりあえず、『知り合い』にならない?」 知り合いになる、という言葉に、ほんの少しだけ、胸が痛んだ。知り合いですらない、自分に。 「名乗りあって、知り合って、先がどうなるかはわからない。俺は新しい場所に行くから、他の人を好きになるかもしれないし、……でも、それでも、よければ」 「知り合いになります」 途中から言いにくそうになった先輩の言葉を、無理矢理すくいとるようにして、私ははっきりと言い切った。 「……でも」 「私は、卒業式まで、先輩の中に無かったものだったんだから、」 「ものって」 「いなかった人間なんだから、それで、充分です」 ぺこ、と私はお辞儀をしてから、名前を名乗った。先輩も、名乗った。二人で握手をして、同時に、笑い出していた。 しばらく笑ったあと、先輩は携帯電話の番号と、メールアドレスを書いた紙をくれた。私はそれを受け取って、あとでメールしますね、と笑った。 「で、知り合いって、どうしたらいいんですか」 「……どうしたらって、」 一瞬呆気にとられたらしい彼は、けれどちらりと上を見た。多分、桜を。 そして、笑う。 「じゃあさー、知り合い記念に、花見行こうか、春休み中に」 はい、と答えた声は不自然に大きくて、また、笑われた。 20090331 700hit、りゅうこうめい様に。 卒業テーマの「春告げ、匂えば。」&clap小説のその後の2人を。 お待たせして、すみませんでした…(泣) ハッピーエンドと言えるかどうか…、はい。こんなかたちに落ち着きました。 いつも来ていただいて、ありがとうございます。 これからもよろしくお願いします! [*前へ] [戻る] |