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企画小説
I love MUSIC better than YOU.(0906) 3

 かわいらしく、おさなく。
 いつも凜とした彼女の、それはひどく魅力的な笑顔だった。
 ざわざわ、胸が、騒ぐ。
 けれどーーふと、視線を感じた。背中に。

(ーーせなか、)

 背後は窓、俊輔は突然、店の外からまだ戻って来ていない倉見のことを思い出した。
 亜也子を誘い出した倉見。先に戻ってきた亜也子。倉見の苦い笑い。頭の中で全てがかちりと音をたててはまっていく。
 振り返りそうになる自分を律し、俊輔は言葉を紡いだ。

「……じゃあ今度、やりたい曲の譜面、交換しようか」
「はい」
「よろしくね、亜也ちゃん」
「はい」

 背中に、へんな汗をかいていることに俊輔は気付く。黒いミニスカートからのびた足がそっと俊輔の前から去るのを、ただ見送った。
 俊輔に、倉見と亜也子の会話が聞こえなかったように、倉見にも、俊輔と亜也子の会話は聞こえない。あの笑顔を見てしまったら疑えない。疑うことはない。俊輔への好意を。
 からん、とドアが鳴る。倉見がふんわりと煙草の匂いをまとって、俊輔の隣に座った。
 亜也子はカウンターでマスターと談笑しているようだった。高田は静かに席を立つ。コーヒーが空になっていた。

「……おまえ自覚してる?」
「なにを」
「付き合うの?」
「そんな話はしてないですよ」

 さっきの話を誤解している、ととっさに思った俊輔がそうはっきりと言い切ると、倉見は小さく笑った。

「相手が誰だか迷いはないんだな」
「ーー!」

 はめられた、と思っても今更どうにもならなかった。俊輔は静かに苦笑する。そして、答える。

「……付き合えませんよ、俺には」
「なんで」
「亜也ちゃんよりも、亜也ちゃんの歌が好きですから」
「……ああ、そうなのか」

 倉見は静かにそれを受け止め、そして彼もまた、立ち上がった。
 俊輔はひとり、テーブルに残った。

(おれは、うたよりも、)
(ひとをすきになったことは、)
(ないんだよ、あやちゃん)

 倉見も、高田も、そして亜也子も多分、同じ。
 音楽が鳴ることより、好意を優先することは、ない。
 この場所では。

(でもきみも、)
(同罪、だろう?)

 出逢いの場所が違えばあるいは、とも思うが、ここでなければ出逢うこともなかっただろう。
 俊輔は、ざわついた胸を、無理矢理に鎮めた。
 二度と亜也子に、揺れないように。

短編小説企画「cantata」様に提出
お題:
「私が“愛さ”ないことを選んだ日」

おなじみな方には、俊輔視点の過去編です、と。
はじめましてな方には、わかりにくいでしょうか。一応、これだけでも読めるように気を付けて書きましたが…、すみません。
シリーズみたいになっているのでよろしかったらまた読んでみてくださるとうれしいです。
瞳の中の残像
祈りの、うた
桜の隙間
桜の下の春
無防備な腕、汚れた桜色





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あきゅろす。
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