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迷探偵サトコっ



何かがわたくしを駆り立てる。……そうそれは嗅覚。
ふしゅう…いや怨念?ちがう…言うなればそれは、事件の臭い!わたくしは臭いをたどり、教室の戸をくぐるっ、目の前に広がる光景っそれは……
「……死んでるよっ!魅ぃちゃんが死んでるっ!血がドクドクなんだよ!?だよ?!」
魅音さんの死体、慌てふためく皆、狼狽の声がわたくしの心を高鳴らせる!あぁ初めての難事件ですわぁー!
「大丈夫かよ魅音!」容疑者の一人、圭一さんが憐れなる骸に駆け寄り、その骸を揺さぶる、わたくしの助手たる梨花は……
「みー☆死んでしまってかぁいそかぁいそなのです」
頭をなでなでして常に優しさを忘れない!さぁ行きますわよー!わたくしの出番っ!
「をーっほっほっ、皆さん動かないでくださいませ!わたくしがこの事件を扱いますわー!」「誰なのかな、かな?!」「わからん、聞いたことない声だぞ!?いや沙都子か?」「沙都子か!?も何も、沙都子ですよ、沙都子、あのねぇ、沙都子、お姉が死んでるんですよ!?探偵ゴッコなんてしてる場合じゃ……」
ツカツカと詰め寄ってきた詩音さんにわたくしはチッチッ…と指をふる。ゴッコと言ってる時点で詩音さんの勘違いは明白!推理するまでもありませんわ!
今後の捜査をやり易くするために、梨花に皆の勘違いを解いて貰うことにする。探偵は威厳を出すためにあまり喋らないことが大切なのだ!

「探偵ゴッコじゃありませんでしてよっ、さあ梨花!教えてやってくださいませ」「あいさーなのです」「ちょっと何ですか、梨花ちゃま、スカート引っ張らないでー!」
「みー、いいから皆集まるのです。沙都子はふざけてないのです。今からそれを説明するのですよ」
「まったくもう何なんですか、一体……」



「それで?座りましたけど……」
しぶしぶと詩音さんが椅子に座って、レナさんと圭一さんも集まってくる。
梨花はわたくしの隣に立つと、皆の注目が集まったのを見計らってから口を開く。
「……ここにいるお方は、沙都子だけど、ただの沙都子じゃないのです」
「沙都子じゃない?だったら何だって言うんですか、この期に及んでふざけたら…」「待って詩ぃちゃん、梨花ちゃんも沙都子ちゃんも真剣だよ。黙って聞こ?」「……」
詩音さんが黙ったのを見て、圭一さんが先を促す。
「んで、何だよ梨花ちゃん」

「みー、皆には隠してましたが、実は沙都子はめいたんていさんなのです。今まで、色んな難事件を解決してきたのですよ」

「名探偵って沙都子がか?」「にわかには信じられませんねー」
「うん、この近くでそんな話聞いたことないし……」「そうですよ、密室殺人なんてやる人いません、あんなの推理小説の中だけです」
皆が与えられた情報にざわつき、圭一さんは何かに気づいたようだった。「……ん?いや待て、もしかしたら沙都子は連続怪死事件を解決したんじゃないか?それなら、名探偵と言えるぜ」「でも、あれが解決したなんて聞いたことありませんけど…」
連続怪死事件…?フフン、惜しいけどちがいましたわね。戸惑いを浮かべる皆にわたくしはチッチッと指を振る。
「連続怪死事件、そんなチャチな事件解決するまでもありませんわ。わたくしはもっともっと難事件を解決しましたの」
わたくしの様子にますます皆は驚いたようだった。
「あれがチャチ…?」わたくしはこのタイミングを逃さず、梨花の肘をつんとつつく
梨花はにぱー☆と笑顔で頷き、表情を解き、厳かな声で続ける。
「みー、そうなのです。沙都子はもっと大切な事件を解決してるのです。怪死事件なんかではなく、子供が失くしたオモチャを見つけたり、宝くじの6等をズバズバ当ててみたり、巷の事件をあますことなく解決する迷探偵さんなのですよ」

『………………………』
皆絶句し…、圭一さんがおずおずと隣のレナさんに囁く「宝くじの6等ってあたり、微妙に現実的だな……」「うん、一桁目当てるだけだもんね、沙都子ちゃんならやるかも」「あの、梨花ちゃま…他に何かあります…?」

「みぃー?他に……他に…、あっ…他にも、迷い犬をたった5日で見つけたり、ブロッコリーとカリフラワーの違いをズバリと見分けたりしましたです。その的中率はなんと、驚きの80%なのですよ。一人でお買い物できるのです。ただの沙都子じゃないのです。にぱー☆」

『…………………』
さすがは梨花、過不足ない説明ですわ!わたくしはフフンと胸をはる!
皆はしばらく、絶句したあと……、圭一さんがポツリと呟く。
「とりあえず警察呼ぶか」「……だね」
警察か……「梨花…」わたくしは梨花の腕をツンツンつつく、梨花もにこやかに説明を始める。
「みー☆警察なら、沙都子が呼ぶのです。沙都子の担当刑事がいるのですよ」『へっ?』



 …………わたくしのパートナーたる刑事の大石が、太ったお腹を揺すって、たぷたぷと教室に入ってきた。「圭一くん…ホントに来たね。警察」「だな…。沙都子ってもしかして、名探偵なのか?」
皆が緊張の面持ちで見守る中、大石刑事はわたくしを見て、相好を崩す。
「なっはっは、お呼びですかね。めい探偵さん」
その言葉を聞いた瞬間、圭一さんがますます驚いて、わたくしに言う。
「お、おい沙都子、大石さんとそんなに仲よかったのか?」
フフン、名探偵なら当然でしてよ?聞かれるまでもありませんわ。
「ええ、そうですわよ、大石刑事とは幾つかの事件でご一緒しましたの。……大石刑事。お忙しい中お呼びして申し訳ありませんわね」
 大石は、いえいえ非番ですから、お気になさらず。と前置きしてから、にこやかに聞く。その瞳に浮かぶはわたくしへの信頼。
「それで、こんどはどのような難事件を?迷い猫捜しですかね?はたまた、ガキ大将でも捕まえた?んっふっふ、この前のブロッコリーとの格闘は、手に汗を握りましたが……おや?何やら血を流していらっしゃるようで…」
「そうですのよ、魅音さんが死んでますの、痛々しい事件ですわ」
「死んでる…?」
……大石刑事は、眉間に皺を寄せ、一瞬魅音さんの亡骸に視線を走らせ、居並ぶ面々をねめまわす。「お宅ら、救急に電話しました?お友達が倒れたのに、死ぬまでほったらかしですか…?んー?」「はぅ…それは…その…」「それはその…なんです?」「はうぅ……」
逃げないように全員を脅すつもりなのか、大石刑事はレナさんを睨むのをやめ、なぜかわたくしを睨んだあと、今度は詩音さんを不愉快そうに睨んで……詩音さんが、不機嫌そうにいう。
「刑事なんだから、お姉が死んでるのくらいわかるでしょ、いいからさっさと仕事してよ。お姉が死んだなんて、まだ実感わかないんだから」

大石刑事は、舌打ちすると、ギョロリと視線を動かし、魅音さんの亡骸の方にどしどしと歩を進め、ゆっくりと屈む。そして検分をし…唸って、それよりもっと険しい顔をして立ち上がり、戻ってきて、わたくしの肩を叩いて、やおら一言。
「これは、なんともあなた向きの事件のようですな。あー、皆さんも動かないで、サトコ探偵の指示に従ってください」
「えっ…と、沙都子ちゃんのですか?」「ええ、そうです」「こんな時にふざけないでください。お姉が死んでるんですよ?ちゃんと捜査を……」
大石刑事は聞こえない風を装い、机をどけ椅子にでっぷりと腰かける。そして煙草をふーっと吹かす。二ヶ所ある出口の真ん中に陣取ったから、これで犯人は逃げることはできない……ここからが、わたくしの出番。
あ、でも、今回の事件名は何にしたら…?魅音さん殺人事件だと、シンプルすぎますわね……、じゃあ、雛見沢分校殺人事件〜麗しのポニーテール〜。まあまあですわ。その時、助手の梨花が、「……沙都子探偵、皆が指示を待ってますのです」……そうわたくしに告げる。いけないいけない。もっと気を張らないと………わたくしはこほんと咳払いをすると、皆を見回し、声をかける。

「では容疑者の皆さま、アリバイがないか、事情ちょうしゅを始めますわ。異議はありますかしら?」「あるに決まってます」「ねぇ沙都子ちゃん、推理より救急車呼ぼ?犯人捜しはまだ早いよ」「そうだな、まだ助かるかもしれないからな」
容疑者たちの不満そうな声、でも救急車……確かに魅音さんが死んだと思うのは早計だったかも…仕方なくわたくしも頷くことにする。
「…んーそうですわね、救急車に電話して…それから」

そこで助手の梨花から叱責の声。

「駄目なのです沙都子探偵」

え…………だめ……?
「なぜですかしら?救急車は必要でしてよ。血は流れてるけど、助かるかもしれませんもの」

そう言ったけど、梨花の瞳は変わらない。どころかより真剣なものになる。
「みー魅ぃを助けたい気持ちはわかりますです。でもボクがパッと見た限り魅ぃは死んでます。犯人だってそのことを知ってますです。容疑者が追及から逃れようとしてるだけなのですよ?救急車を呼んだら逃げられてしまうのです。眼を覚ましてくださいです。心を鬼にするのです」
んー、そうなのかしら……。わたくしは判断に迷って、大石刑事にもチラっと視線を走らせる。
「んっふっふ、そうですそうです。証拠を隠滅されちゃどうにもなりません。鉄は熱い内に打て!これ鉄則」

そうか…犯人の罠だったのか、わたくしとしたことが、やっぱり事情ちょうしゅが先。これからは自分の考えは曲げないようにしないと、わたくしはすぅーっと息を吸い込んで、解き放つ!
「事情ちょうしゅをするから、皆さん来てくださいませ、反論したら即有罪ですわ」
その瞬間、ねーねーが、驚いたようにガタンと机からずり落ち、眼を見開く「ちょっと沙都子、即有罪って、反論したら、お姉殺した犯人にされるってことですか?本気?!」
「ええ、そうでしてよ。犯人捜しの基本ですもの」
梨花が尊敬の眼差しでウンウンと頷く「みー犯人は言い逃れようと反論するものなのです。反論したら犯人でまず間違いないのです。沙都子探偵の研究成果なのですよ」「なっはっは、そりゃ楽でいい。私もこれから真似しましょうかね」「いいんじゃございません?検挙率はうなぎ登りでしてよ。大石刑事には使用許可をあげますわー」「かたじけない。これで犯人をバシバシ捕まえられるってもんです」
「ね…圭一くん、沙都子ちゃんたち正気なのかな、かな?レナわかんなくなってきた」「俺もわからんが、とにかく反論はしない方がよさそうだな、本当に捕まりかねん」「というか、さっさと脱出しません?このままここにいてもどうにもなりませんよ」「んー、大石さんが邪魔だな。逃げても有罪にされそうだ」「はぁ…いい年した大人がどうして沙都子の戯言を真に受けるんだか」「はぅぅー、あ、沙都子ちゃんが来るよ。今は従わないと……」「ええ」「ああ」
「あら…?何を話してましたの?」「いやなんでもないぜ」「そうですの、とりあえずアリバイをお聞かせ願いますわね」







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