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1鏡崩し編〜終章〜




「今日の圭一くんかぁいかったね〜スクール水着に猫耳、尻尾まで!はうぅ〜〜♪♪」

「をっほっほ、青あざがよ〜くお似合いでございましてよー、あれだけわたくしたちを慰めものにしたんですもの、圭一さんにはいいお薬ですわー!」

「み〜☆でも、圭一はあれくらいじゃ懲りないのですよ。次はもっともっと可愛くしてやりましょうで」ひょいっ「み!みぃ〜〜〜〜!」
「はぅ〜〜〜!今日は好きなだけ撫でていいから、逃げちゃダメなんだよ?だよ?」

うららかな陽光の中、僕は楽しそうにはしゃぐ梨花たちを見てあうぅとため息をつく。
綿流しまであと数日……今学校がおわって歩いて帰宅してるところだから、明日、明後日、明明後日がおわったら次の日が……綿流し!あとたったの4日!
あの日……沙都子と一緒に住み始めた日、梨花は僕に、一緒にカケラを渡らないと宣言した。
でもあの時は、綿流しが近くなれば梨花が考えをあらためてくれるんじゃないかと、少々楽観していた。
でもこうして、綿流しが近づき、梨花が自分なりに一生懸命頑張ってるのを見ると、自然焦りを覚えてしまう……この様子だと、梨花は考えを変えるつもりはないらしい。
梨花は頑固だから、僕の言葉じゃ考えを変えることはない。意固地になるだけ。
となれば当然、梨花はこの世界で生を終えると言うことで、僕はそのあと……はぅあぅあぅ……僕が悩んでいると、レナと沙都子が話してるのを見計らって、梨花が僕に話掛けてくる。

「羽入、この頃暗いのですよ?綿流しまであとちょっとだから、もう少し明るくしてくださいです」

「だって……」

僕が泣きそうな顔したから、梨花は仕方なさそうに笑顔を作って話題を変える。

「あ、そうだ。羽入は綿流しのあと、どのくらいまで記憶がありますますですか?ボクは綿流しの夜までなのです」

あう?何で急に綿流し?
あわてて記憶を走査してみる……前の世界の綿流し……綿流し、すぐに見つかったから、ホッとして、笑顔の梨花に答える。

「あう、僕は次の日のお昼までなのですよ。そのあとの記憶はありませんです。その後すぐ死ぬのかはわかりませんが」

「じゃああと5日間、シュークリームをたくさん食べてあげますです。羽入の頬っぺたを落としちゃうくらいに!みぃ〜☆大サービスなのです」

どうやら僕を喜ばせたいらしくて、梨花がにぱぁ〜と微笑む。
梨花の笑顔が眩しい、この笑顔ともあと5日でお別れ……それまで僕に何ができるのだろう?何の行動も起こせないこの身体で……
梨花は喜ばない僕を見て、悲しそうな顔をする。

「シュークリーム嬉しくないのですか?いっぱい食べるのですよ?……ちょっとくらい笑ってほしいのです」
「梨〜花ちゃん!そういえば、梨花ちゃんって圭一くんがいるとあんまり話さないね〜。どうしてなのかな?かな?」「それは、わたくしも不思議ですのよ。とたんに口数が減りますもの」
「みぃ〜?そうですか?いつもとおんなじなのです。それより……」

梨花はまたレナと沙都子との会話に戻っていく、笑ってほしい…か。
……確かに梨花にとっては僕と話せるのもあと数日、暗くされるのはいやだろうし、ましてや、僕に対して罪の意識を持っているから、できれば笑顔でいてほしいにちがいない。
だとしたら、僕はどうすべきだろう。
この何もできない身体じゃ、梨花の意識を変えることはきっとできない。
梨花は一度決めたら頑固だし、意固地になるから……周りの状況をいじれない僕には心を変えるのは難しい。
その上、もともと梨花をこの世界に連れて来たのは僕の我が儘……梨花が望んだわけじゃない。
その梨花が死を決意したのなら、僕は笑って送り出すべきなのだ。
例えもう千年一人で過ごそうとも、これは梨花の人生なのだから……その最後の時を笑顔で送り出せなかったら、きっと僕はずっと後悔することになる。
それなら残りの時間は、梨花との最後の時間を楽しむべきなのかもしれない。梨花の考えを変えようとなんてせずに。

楽しそうにはしゃぐ梨花たちを見て、もう一度あうぅと考えてみる。
……それに僕が梨花を説得する材料なんてな……あぅ!!?あぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅ!?材料!?パッと思い出す!
あったのです!忘れていたのですよ!梨花を説得する材料!えーっとあれは確か…
僕はあわてて、千年分の記憶の倉庫から記憶を探し始める!えっと誰だったか、近頃運命が変わった人がいたはず!あれはあれは…あぅあぅあぅ!

一応説明しておくと、僕の場合千年も記憶があるせいで、記憶がすぐにごちゃごちゃになってしまう。
一度覚えたことは二度と忘れないのだけど、膨大な記憶を持ち続けるのは精神的にとても大変なので、普段はなるべく考えないようにポケポケしながら過ごすことにしている。
できるだけ気楽に楽しく、考えないように、そのため普段はほんのちょっぴり子供っぽい。

ポケポケのコツとしては……千年の記憶に厳重に厳重に蓋をして、溢れ出さないようにし、心の平穏を保つこと。
……これがひじょーに肝心で、こうしておかないと僕の自我なんてあっという間に押し潰されてしまい、そこから立ち直るのに多大な時間がかかるのだ。
そのため、蓋はとっても強固な造り……だと自分では自負している。

そして、その蓋の下は千年分の記憶で溢れているため、記憶を引き出すのはそれなりに時間がかかるのだ。
思い出すのに数分のものもあれば一ヶ月くらいかかったのもあったっけ。
 同じ千年の中から記憶を引っ張り出すはずなのに、数分と一ヶ月、その差がどこから来るのかというと、記憶の新しい古いではなく、類似する記憶の量が関係している。
似たような記憶が多ければ時間がかかって、少なければ時間が短くて済むと言えばいいのか。
例えば、シュークリームを食べた記憶が千年でたくさんあれば、いつ、どこで、どんなとき食べたか思い出すのは大変だけど、逆に結婚みたいに一回しかしたことないことなら、あっという間に思い出せるというわけ。
そんな風に、類似する記憶に応じて、のんびりゆっくり考えて、数分から数時間……場合によっては数週間単位でじっくりと思い出していくことになる。
それは時間のかかる作業だから、毎回毎回、全部の記憶を引っ張りだしていたら、当然日常会話すらできなくなる。
そのため日常生活に欠かせない普通の人と同じくらいの記憶は常に残してあって、人が忘れるくらいの期間が経ったり、そもそも覚えておく必要がないと感じたものは、千年の記憶の底に入れられることになる。
今思い出そうとしてるのはそういう記憶。
ついでに言えば、記憶を取り出すのには時間がかかるため……僕の威厳が損なわれないよう、聞かれそうなことは前もって取り出して置くのが肝心。
そうしておかないと、咄嗟に聞かれて何のことかわからなかったり、梨花が知ってるようなことでさえ忘れてしまっていたりすることになる。
威厳を持って梨花を導くのには、見えない努力がいるのだ。
それはともかく、梨花を説得する材料をさがさないと……あぅあぅあぅあぅあぅ………………………………


……一生懸命探すうち、気づけば夕方になっていた。もう数時間経ってしまっていたらしい。でもちゃんとみつけたのです。
今居る場所は、商店街の入り口を少し出たところで。
周りは夕焼け、カラスがにぎやかに鳴いていて、梨花たちはもういない……人影もまばらだ。
ちょっと悲しくなったけど、自分を鼓舞し。
涙を拭いて、とりあえず梨花を説得するため、梨花と沙都子の家に向かうことにする…!梨花は今、奉納演舞の練習しているはず。




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あきゅろす。
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