あんたらしいよ(笑)
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(あったあ…)
俺は購買の入口で、息を切らせながらお目当てのものを確認した。ラスト一個、半透明なビニールから中身がしっかり確認出来る。狙いは、ここの購買で大人気のバウムクーヘンだ。
男1人でそんなスイーツを買うなんて、もしかしたら恥ずかしい事なのかもしれないが世間は知らん、俺は甘いモンは好きなんだ。俺は俺だ、気にしない、と心の中で唱えて手を伸ばす。
…が。
俺の手より数センチ先で、白くて綺麗な手がそのバウムクーヘンに触れた。…なん…だと?
耳が赤くなった気がする。更に動揺した俺は、隣にあった特に欲していないシュークリームを取り、何事もなかったようにレジにならんだ。先程の勝者がこっちを見ている気がするのだが、んなの知るか。あ―…、俺、恥っず…。
その日はもう講義もなく、一つ伸びをして帰る事にする。250円の無駄なスイーツを頬張りながら行こうと、購買を出て袋をあけようとしたとき…
「あのぉ…」
綺麗な手の勝者は、俺に話しかけてきた。戦利品を手に持って。
「半分ずつ、しましょ?」
その時のいたずらっぽい目。
にいっと歯を見せる口。
小さい背丈からか、どことなく子供っぽさを見せるワンピースの女子。
あのとき顔が赤くなった気がしたのは、自分の行動の恥ずかしさからきているのか、それともこいつに心を惹かれたからか…今となっては思い出せない。
そんな、大学2年のときの小さな出会いが発展して、もう8年。発展、とはまあ恋人になった、なんて言うありきたりな進展の事。お互い普通に就職して社会人になり、…その、まんま。たまに喧嘩することもあったけどすぐに仲直りして(つまりただのバカップルで)、…その、まんま。流れで、つまり軽いノリで同棲はしてるけど…結局、その、まんま。
そのままの普通の恋人同士から、何も変わらない。
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